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2011年02月13日

科学誌サイエンス 2010年 4月 30日


跳ねるカエル:両生類として初めて解読されたゲノムから得られる多くのヒント
Leaping Frogs: Clues Revealed in First Amphibian Genome

今回、両生類ゲノムとして初めて塩基配列が解明されたニシツメガエル(Xenopus tropicalis; アフリカツメガエルXenopus laevisの近縁種)のゲノムを分析したところ、ヒトゲノムと驚くほど共通する部分のあることがわかった。遺伝疾患に関与するヒトの全遺伝子のほぼ80 パーセントがニシツメガエルと一致したのである。今回の発見から、様々なヒト疾患の分子メカニズムを研究解明するためカエルモデルを開発することができる、と考えられる。また今回の研究から、何故世界のカエル種は急速に減少し続けているのか、その謎を解く手かがりを見つけることも可能かもしれない。ニシツメガエルは、ヒトゲノムとほぼ同数のタンパク質コード遺伝子をゲノムに含んでいるため、研究室で最も研究されているカエル種のひとつになっており、胚発生や細胞生物学の研究でモデル動物として広く使用されている。 Uffe Hellstenらは、ニシツメガエルのゲノムの構造を詳しく調べて、遺伝子がヒトおよびニワトリのゲノム内にほぼ同じ順列で配列されている領域(シンテニー領域と呼ばれる保存された領域)を発見し分析した。これら共通する領域は、基本的には遥か3億6000万年前の古いゲノムの断片である。つまり全ての哺乳類、鳥類、カエル、サンショウウオ、恐竜などかつてこの地上を徘徊していた全ての生き物に共通する最も古い先祖のものである。またカエルなどの両生類は環境有害物質や生息地の変化から絶えず攻撃を受けている状態であり、環境や食物の中の汚染物質に極めて敏感であることから、歩哨生物とみなされている。ゲノム法を用いて環境変化に対するカエルの反応を調べれば、カエル種の多様性を保存するのに役立つであろう。

"The Genome of the Western Clawed Frog Xenopus tropicalis," by U. Hellsten at Department of Energy Joint Genome Institute in Walnut Creek, CA, and colleagues. Please see the manuscript for a complete list of authors and affiliations.


生物多様性への期待が崩壊
The Broken Biodiversity Promise

2002年、世界的なリーダーが生物多様性に関する会議のために集まり、2010年までに、世界中の生物多様性損失率を軽減すると約束した。しかしながら、その会議のある枠組みを用いた新たな分析によると、このゴールにはまだ至っておらず、地球の生物多様性に直面した圧力が増加しつづけていることが示された。Stuart Butchartらは、種の数、個体数、森林破壊率および世界で進行中の保護努力などを含んだ31の特別な指標を集めた。研究者らは、1970年から 2005年まで間の地球規模のデータからなるこれらの指標を評価し、何年にもわたって減少していることが示された生物多様性の指標を見つけ出した。一方で、地球規模の生物多様性に関する圧力の指標は増加している。保護地域を中心とした、世界のある地域では、いくつかの成功例があるにも関わらず、 Butchartらは、生物多様性の減少率が近年低下しているという指標を見つけることができなかった。彼らは、世界の生物種に関する圧力の増加が、不十分な反応と相まって、「生物多様性保全条約」は2010年までの目標に達しないと運命づけられていると述べている。世界政府が地球の生物種の保全に真剣であるならば、研究者らは、不利益な政策を逆転し、生物多様性を土地活用法に組み込み、さらに、生物多様性に真正面から取り組む政策に対する財源を増やすことが、唯一現実的にとるべき手段であると論じている。

"Global Biodiversity: Indicators of Recent Declines," by S.H.M. Butchart at United Nations Environment Programme World Conservation Monitoring Centre and Birdlife International in Cambridge, UK, and colleagues. Please see the manuscript for a complete list of authors and affiliations.


細菌のバイオフィルムは自滅の元をつくる
Bacterial Biofilms Make the Seeds of Their Own Undoing

浴室のぬめり、歯垢、医療機器表面や病院の壁面に形成される皮膜 ―― どれも、洗浄や抗菌処理を行っても消滅しない細菌叢、細菌のバイオフィルムである。新たな研究から、Bacillus subtilisという細菌の少なくとも1種は、バイオフィルム形成を阻害する特定のアミノ酸の産生し、既存のバイオフィルムの分解を誘発することがわかった。バイオフィルムが古くなると、栄養分の供給が低下し老廃物が蓄積されて細胞が浮遊しやすくなる。Ilana Kolodkin-Galらは、B. subtilisが古くなった細菌叢から特殊なアミノ酸、D-アミノ酸を分泌することを発見した。著者らによれば、D-アミノ酸は複数の細菌によって産生され、バイオフィルム分解の引き金になっていると考えられる。著者らは、このアミノ酸が抗菌剤として医療や産業の現場で有用である可能性を示唆している。

"D-Amino Acids Trigger Biofilm Disassembly," by I. Kolodkin-Gal; R. Losick at Harvard University in Cambridge, MA; D. Romero; S. Cao; J. Clardy; R. Kolter at Harvard Medical School in Boston, MA.


協調の鍵を握るコミュニケーション
Communication as the Key to Cooperation


経済学者と社会科学者は100年以上にわたって、経済人(ホモ・エコノミクス:Homo economicus)という言葉を用いて人間を自己利益のみに従って行動する合理的生物であると評してきた。しかし私たち人間は、相互尊重の意識を持たない存在にはなりきれていない。今回、実験的研究および理論的研究の2つの研究によって、人と人とのコミュニケーションと組織性は共に人間の協調的努力にとって必要不可欠であることが証明されている。これらの研究はまた、人間集団の進化過程において罰という行為が徐々に浮上してきた経緯の解明にも役立つと思われる。集団行動では、その集団全体により大きな利益をもたらす行為と個人的な利益をもたらす行為の間で葛藤が生じることが多々ある。過去の行動学的研究によると、協調は集団内の大半のメンバーが貢献しない限り崩壊する可能性があり、多くの場合フリーライダーは協調を維持するために罰せられる。しかし、罰は集団メンバーにとって代償が大きすぎて益にならない場合があるという研究もある。そこでMarco Janssenらはこれらの複雑な人間関係をさらに詳しく調査するために、実験的な環境たとえば森林や漁場で被験者らが協同して資源管理しなければならないゲームを実施した。その結果、フリーライダーへの罰は、被験者集団全体によって組織化されていない場合もしくは集団メンバーが承認していない場合、実際には逆効果になり得ることを確認した。この研究によって、集団メンバー間のコミュニケーションは利益拡大に向けた資源管理の鍵であるとともに、集団内の協調を維持するための罰の実施の鍵でもあることが判明した。もう一つの論文では、Robert Boydらが昔からの人間集団における組織的な罰のモデルを提示し、Janssenによる実験的研究の結論を支持している。Boydらの理論的モデルは、フリーライダーを罰することで生じる代償は罰する側の人数の増加によって軽減可能であることを示している。言い換えると、フリーラーダーに対する罰は集団メンバーで組織化されているのであれば集団全体にとって益になるが、集団メンバーが個々に与える罰が集団全体の益になることはまずない。 Perspective記事ではLouise Puttermanがこれらの研究結果とそれらの関連について詳しく説明している。

"Lab Experiments for the Study of Social-Ecological Systems," by M.A. Janssen; A. Lee; E. Ostrom at Arizona State University in Tempe, AZ; R. Holahan; E. Ostrom at Indiana University in Bloomington, IN.


Translational Medicine 4月28日号: 骨折に対する治癒力の強化
Broken Bones get Healing Boost


生化学的にマウスの骨折の治癒を速める手法が発見されたことが、新たな研究により報告された。同手法を、毎年骨折により入院する数百万例の患者に対する再生医療において、骨移植の増強から修復の促進までの広範な目的に適用できる可能性がある。ヒトとマウスでは、正常な骨再生と受傷後の治癒にWntタンパク質が必要である。Steven Minearらは、Wntタンパク質が、新たな骨の形成を担う骨幹細胞を活性化させることによって、その作用を発揮していることを発見した。同研究者らは、遺伝子改変マウスにおいてこの生来の修復過程を促進することにより、骨治癒を速めることに成功した。Wntシグナル伝達を遺伝的に促進したところ、正常マウスに比べ、損傷部の骨幹細胞が急速に分裂し、迅速に骨形成細胞に成熟した。次に、非遺伝子改変マウスにおいて同様の効果を発揮する、リポソーム化 Wnt3aと呼ばれる物質を作製した。マウスにリポソーム化Wnt3aを注入したところ、遺伝子改変マウスでみられたのと同様に、骨幹細胞の盛んな分裂と迅速な成熟が刺激され、骨修復過程が促進された。しかしこの作用は一時的なものであり、損傷部位に限定的に認められた。Wntシグナル伝達が制御されない状態では、過剰な骨形成などの有害な副作用を引き起こす可能性があるため、この点は重要である。同研究者らは、皮膚損傷、脳卒中、心臓発作後の組織再生の向上を目指して、類似するWntタンパク質を用いるアプローチ法について検討する予定である。

"Wnt Proteins Promote Bone Regeneration," by S. Minear; Y.A. Zeng; C. Fuerer; R. Nusse at Howard Hughes Medical Institute in Stanford, CA; S. Minear; P. Leucht; J. Jiang; B. Liu; Y.A. Zeng; C. Fuerer; R. Nusse; J.A. Helms at Stanford University School of Medicine in Stanford, CA.




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科学誌サイエンス 2010年 4月 23日


HIV患者がサルモネラ菌に感染しやすい理由
Why HIV Patients Are So Susceptible to Salmonella

アフリカの成人HIV患者における機能不全の免疫反応が、何故ある種のサルモネラ菌感染に対して無力であるのか。その答えが明らかになった。この発見は、日和見病原菌によるHIV患者の死亡率が高い理由の一因となろう。また将来、サルモネラ菌感染にも有効な効果の高いHIVワクチンの開発にもつながって行くであろう。Calman MacLennanらは当初、HIV患者ではサルモネラ菌特異性抗体を作るのが困難ではないかと予測していたが、結果はこれとは全く反対であった。つまり、HIV感染者では、細胞壁のリポ多糖(LPS)タンパク質に対して特異的に抗体濃度が上昇したのである(健常な免疫反応を持つ患者では、抗体は外膜タンパク質特異的に作用するため、サルモネラ菌を死滅させて感染を除去することができる)。また、HIV感染血清でもLPSを欠損したサルモネラ菌株を死滅させることができ、さらにHIV感染血清からLPS特異性抗体を除去するとサルモネラ菌に対する血清効果が再び回復することも明らかになった。この発見から、HIVは細胞性免疫異常を誘導するだけでなく、分泌型抗体を介する液性免疫も機能がかなり悪化しLPSタンパク質を標的にすることが示唆された。このように低下した免疫反応は、HIV感染者が他の二次感染に直面した場合に深刻な結果を引き起こすことになる。そこで今後は、サルモネラ菌のLPSではなく、外膜を標的とするワクチンの開発を著者らは勧めている。Perspective記事の中で、この一連の発見とその意味について、Susan MoirとAnthony Fauciが詳しく述べている。

"Dysregulated Humoral Immunity to Nontyphoidal Salmonella in HIV-Infected African Adults," by C.A. MacLennan; J.J. Gilchrist; A.F. Cunningham; M. Cobbold; M. Goodall; J.L. Marshall; E.N. Gondwe; S. Bobat; M.T. Drayson; I.C.M. MacLennan at Medical Research Council Centre for Immune Regulation and Clinical Immunology Service in Birmingham, UK; C.A. MacLennan; J.J. Gilchrist; A.F. Cunningham; M. Cobbold; M. Goodall; D.L. Leyton; J.L. Marshall; E.N. Gondwe; S. Bobat; I.R. Henderson; M.T. Drayson; I.C.M. MacLennan at University of Birmingham in Birmingham, UK; C.A. MacLennan; J.J. Gilchrist; M.A. Gordon; J.J.G. van Oosterhout; C.L. Msefula; W.L. Mandala; E.N. Gondwe; E.E. Zijlstra; M.E. Molyneux at College of Medicine, University of Malawi in Blantyre, Malawi; C.A. MacLennan; M.A. Gordon; C.L. Msefula; W.L. Mandala; E.N. Gondwe; M.E. Molyneux at University of Liverpool in Liverpool, UK; J.J. Gilchrist at Oxford University in Oxford, UK; J.J. Gilchrist at John Radcliffe Hospital in Oxford, UK; R.A. Kingsley; G. Dougan at Wellcome Trust Sanger Institute in Cambridge, UK; C. López-Macías at Mexican Institute for Social Security in Mexico City, Mexico; C. López-Macías at Specialties Hospital, National Medical Centre "Siglo XXI" in Mexico City, Mexico; R. Doffinger at Addenbrooke’s Hospital in Cambridge, UK.


アジアモンスーンの予測
Predicting the Asian Monsoon


世界で最も有力な反復する気候システムとして知られるアジアモンスーンは、ほぼ間違いなく、地球人口の半分以上に影響を与えるが、長期の気候データがないことで、その本来の性質を知ることに限りがある。今、研究者らが、300以上の異なる場所から得られた樹木の年輪データを測定することで、アジア全域のモンスーンの多様性に関する700年という長期間の記録を示した。Edward Cookらは、それらの詳細な研究をモンスーンアジア干ばつ地図(MADA:Monsoon Asia Drought Atlas)と呼ぶ。過去および将来におけるモンスーンの多様性をよりよく理解するための、別の関連性のある記録と比較されうると述べている。それらの復元は、過去2,000年の間の3つの重要な気候イベントに相当する、Medieval気候アノマリーの後期、小氷河期および人為起源の気候変動が起こっている現在を含んでいる。MADAはまた、アジアモンスーンが長い間機能しなくなる期間も記録しており、人間を苦しめる深刻な大規模干ばつを記録している。これは、1,300年からの地球上におけるアジアモンスーンの「足あと」を明らかにし、将来、モンスーン性降雨をともなう海水面温度のパターンを比較したり、世界中の気候モデルの改良に用いられる可能性がある。Perspective記事で、Eugene WahlとCarrie Morrillは、MADAから推測される内容についてより詳細に述べている。

Asian Monsoon Failure and Megadrought During the Last Millennium," by E.R. Cook; K.J. Anchukaitis; B.M. Buckley; R.D. D’Arrigo; G.C. Jacoby; W.E. Wright at Lamont-Doherty Earth Observatory of Columbia University in Palisades, NY; W.E. Wright at National Taiwan University in Taipei, Taiwan.


双生児研究 ―― 教師が重要な影響力を持つ
Twin Study ―― Teachers Do Matter


新しい研究によると、子供の生まれ持った読書力に磨きをかけるのは、優れた指導であるという。一方で、指導力に欠ける教師のクラスでは、遺伝による大きな能力の違いを考慮しても、子供たちの読書力は一様に低い。読書力に対する影響が大きいのは遺伝か、もしくは環境かという問題はこれまでにもさまざまな議論を呼んできた。Jeanette Taylorらは今回、フロリダ州の小学校で一卵性および二卵性双生児を対象に音読の流暢さのテストによって読書力を表わし、分析を行った。遺伝子が 50%もしくは100%共通する双生児の成績を比較することで、音読テストの成績差がどの程度遺伝的要因によるものであるか、また、双生児に共通する環境的要因や子供ごとに異なる環境的要因によるものであるかを推測した。教師の質の尺度には双生児のクラスメートの一年間における能力の伸びを使用した。その結果、遺伝子の相違に起因するテストの成績差は指導力のある教師のクラスの方が指導力のない教師のクラスよりも大きいことが判明した。したがって、子供が生まれ持っている読書力を伸ばせるか抑制してしまうかといった形で、指導の質は遺伝子や環境と影響し合っていると考えられる。

"Teacher Quality Moderates the Genetic Effects on Early Reading," by J. Taylor; A.D. Roehrig; B. Soden Hensler; C.M. Connor; C. Schatschneider at Florida State University in Tallahassee, FL; C.M. Connor; C. Schatschneider at Florida Center for Reading Research in Tallahassee, FL.


勢いを増すマイクロキャパシタ
Fast and Furious Microcapacitors

小型キャパシタ(エネルギーの蓄積・放出を短時間で行う装置)のパワー密度を向上させることによって、微小な電子装置を連続充電する方法が発見されたという。本技術の用途としては、危険な化学薬品を検出するセンサーや、人体内に埋め込む医療機器、移動する対象を追跡するための無線IDタグなどが考えられる。キャパシタは反対の電荷をもつ2つの導体間にある電場にエネルギーを蓄える。高速で充放電ができるので、電池と組み合わせれば電力回収に威力を発揮し、ハイブリッド車の回生ブレーキなどに使用される。しかしキャパシタは容量が非常に小さいので、これまでマイクロバッテリーには対抗できなかった。今回John Chmiolaらは、モノリシック炭素薄膜を用いて2枚の導体板間に電荷を蓄えれば、スーパーキャパシタ(従来のキャパシタよりはるかに薄型で、より多くのエネルギーを蓄積できる)のパワー密度を大幅に向上できることを示した。驚いたことに、炭素薄膜の小さな孔は電解質を輸送するのに十分な大きさがある。炭素薄膜は現行の半導体製造と共通の加工技術で作製できるため、マイクロスーパーキャパシタは、小型化できる可能性のある様々な装置内の電子機器に組み込むことができる。

"Monolithic Carbide-Derived Carbon Films for Micro-Supercapacitors," by J. Chmiola; Y. Gogotsi at Drexel University in Philadelphia, PA; C. Largeot; P.-L. Taberna; P. Simon at Université de Toulouse in Toulouse, France; C. Largeot; P.-L. Taberna; P. Simon at CNRS in Toulouse, France; J. Chmiola at Lawrence Berkeley National Laboratory in Berkeley, CA.


Translational Medicine 4月21日号: 迅速な脊髄の回復
Speedy Spinal Cord Recovery

Sur1というタンパク質が脊髄損傷の後遺症の悪化に深く関与していることが発見された。この発見は、障害が一生残り(脊髄損傷患者の約半数が下半身不随)、入院やリハビリに高額な費用がかかることの多い脊髄損傷に対して、新たな治療の道を拓くものである。脊椎への急激な外傷性衝撃により骨折または椎骨変位が生じ、軸索(脳と身体をつなぐ脊髄でシグナルを上下行させる神経細胞の突起)が損傷される。脊髄では重度の負傷後、組織や細胞の損傷から保護しようとする作用が働くが、その意図に反してさらなる損傷を引き起こしてしまう。Sur1タンパク質は、負傷後に Abcc8遺伝子によって活性化され、過剰なカルシウムの流入によって細胞が死滅するのを阻止する防御メカニズムに関与する。Sur1はナトリウムを運搬してカルシウムに混入させることで、細胞内に流入するカルシウム量の減少をもたらす。しかし、重度の損傷の場合はこの防御メカニズムがうまく機能せず、 Sur1タンパク質が過度に働くため、ナトリウムが調節されずに細胞内に流入して細胞の破壊や死滅をきたす。 Marc Simardらは、脊髄損傷後のヒト、マウス、ラットから採取した脊髄組織を検討し、Sur1が関与する細胞死や組織破壊の同様のメカニズムが3種ともに認められることを明らかにした。Simardらは、Sur1タンパク質をコードするAbcc8遺伝子を抑制することによって、脊髄損傷マウスの細胞死や組織破壊の過程を阻止し、長期回復を改善した。さらにラットでは、オリゴデオキシヌクレオチド(遺伝子に付着して一時的にその活性を阻害する特殊な1本鎖 DNA)によるAbcc8遺伝子の短期間の抑制が、脊髄損傷後の損傷を大幅に低減させることがわかった。この研究から、脊髄損傷後、できるだけ速やかにオリゴデオキシヌクレオチドによる治療を行ってAbcc8遺伝子を抑制することで、脊髄損傷後の全般的な組織破壊が抑えられ長期回復が改善される可能性が示された。

"Brief Suppression of Abcc8 Prevents Autodestruction of Spinal Cord After Trauma," by J.M. Simard; S.K. Woo; C. Tosun; Z. Chen; S. Ivanova; O. Tsymbalyuk; V. Gerzanich at University of Maryland School of Medicine in Baltimore, MD; M.D. Norenberg at University of Miami School of Medicine in Miami, FL; J. Bryan at Pacific Northwest Diabetes Research Institute in Seattle, WA; D. Landsman at Christopher and Dana Reeve Foundation in Short Hills, NJ.




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2011年02月06日

科学誌サイエンス 2010年 4月 16日


並行作業を行う脳は分担して成し遂げる
Multitasking Brains Divide and Conquer


ヒトがふたつのことを同時にしようとするとき、右脳と左脳はそれぞれのことに対して別々に働くと考えられることがフランスの研究者によって報告された。この観察結果は、一般に同時にふたつのことは適度にできるが、それ以上になるとできない理由を説明するうえで有用である。Sylvain CharronとEtienne Koechlinは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、文字合わせの課題(letter-matching task)を解く被験者の脳の活動を観察した。被験者が課題を1種のみ行ったときは、右脳左脳とも背側前帯状皮質と運動前野皮質の活性が認められた。しかし、同時に2種の課題を行ったときは、左脳の側前帯状皮質と運動前野皮質の活動はひとつめの課題に、右脳はふたつめの課題に反応していた。この右脳と左脳による役割分担は「人間の意思決定や推論能力にみられるいくつかの制限を解明する可能性がある」と著者らは述べている。

"Divided Representation of Concurrent Goals in the Human Frontal Lobes," by S. Charron at Institut National de la Sante et de le Recherche Medicale in Paris, France; S. Charron at Ecole Polytechnique in Palaiseau, France; E. Koechlin at Ecole Normale Superieure in Paris, France; E. Koechlin at CENIR in Paris, France; E. Koechlin at Universite Pierre et Marie Curie in Paris, France.


最古の火星隕石の年代はもっと若かった
Younger Age for Oldest Martian Meteorite


研究者らの報告によると、現在知られている中では最古の火星起源の隕石ALH 84001は、従来の推定年代より約5億年は若いと考えられ、それゆえにおそらく火星の原始地殻の破片ではないという。推定年代約45.1億年前とされてきたALH 84001は、初期マグマオーシャンの固化の時期に形成され、約42.5億〜41億年前にわたる重爆撃期を乗り越えた火星の原始地殻の破片であると考えられてきた。Thomas LapenらはLu-Hf同位体データを用いてALH 84001の結晶化年代を約40.9億年前と改めた。改められたこの年代は―それでもなおこの種の隕石の中では最も古いのではあるが―ALH 84001が爆撃期のちょうど終わりに形成された地殻の破片であるということを示唆している。これに加えて、火星ではマグマからの地殻形成がその歴史の大半を通して継続していたこと、および、ALH 84001が火星のコアにおけるダイナモ効果とそれによる惑星磁場が消滅する直前に形成されたことを示している。

"A Younger Age for ALH 84001 and Its Geochemical Link to Shergottite Sources in Mars," by T.J. Lapen; M. Righter; A.D. Brandon at University of Houston in Houston, TX; A.D. Brandon; A.H. Peslier at NASA Johnson Space Center in Houston, TX; V. Debaille at Universite Libre de Bruxelles in Brussels, Belgium; B.L. Beard at University of Wisconsin in Madison, WI; B.L. Beard at NASA Astrobiology Institute in Madison, WI; J.T. Shafer; A.H. Peslier at Jacobs Technology, Engineering and Science Contract Group in Houston, TX; J.T. Shafer at Lunar and Planetary Institute in Houston, TX.


地球の核の偏った成長
Lopsided Growth at the Earth's Core

なぜ地球の核は非対称で形が崩れているのか?この疑問は、科学者にとって長年にわたって未解明であったが、2つの新しい研究では、地球の核は100万年以上にわたって形作られてきた、という地球力学過程に焦点を当てた。Marc Monnereauらが、さまざまな大きさの鉄の粒子を計算に用い、100万種類もの異なる核の成長モデルを計算した結果、地球の中心にある固体の核は、外核の鉄のゆっくりとした固体化で膨張したことを確認した。彼らは、固体の中心核から液体の外核へ分子の移動があると説明するモデルを見出し、いかに鉄の粒子の撹拌が、鉄の永続する結晶化を核の一方向へ導き、別の方向へは、鉄の継続的な融解物を導くかを実証している。このモデルでは、今日我々が見聞きしている不均衡な核を生成するために、鉄の分子の地下深くへのゆっくりとした移動が、どのように東半球の融解域と西半球の固体域を導きうるかを正確に示した。 その過程は現在進行中であるため、この研究は、比較的若い地球の内核の理論を支持している。別の研究では、Arwen Deussらが、1976年から2009年の間に発生した90の大きな地震の記録から、地球の核の地震学的活動を調べ直した。彼らのデータは、東西半球の傾斜性に加えて、核の特別な地域的変動を特定した。さらに、研究者らは地球の核で発見した変化のパターンは、地球の磁場の形に直接調和しており、そのことは、地球の磁場が形成されて以降、核の成長は、磁場と連結していると述べている。

"Lopsided Growth of Earth's Inner Core," by M. Monnereau; M. Calvet; A. Souriau at Université de Toulouse in Toulouse, France; M. Monnereau; M. Calvet; A. Souriau at Observatoire Midi-Pyrénées in Toulouse, France; M. Monnereau; M. Calvet; A. Souriau at CNRS in Toulouse, France; L. Margerin at CEREGE in Aix-en-Provence, France; L. Margerin at Université Paul Cézanne Aix-Marseille 3 in Aix-en-Provence, France; L. Margerin at CNRS in Aix-en-Provence, France.


修飾DNAの進化の道を追跡する
Tracing the Evolutionary Path of Modified DNA

今回新たに行われた研究から、DNAを変化させる外からの影響は、陸生動植物の進化の過程で有利に働いていることが示唆された。このDNAの化学的修飾あるいはメチル化によって、細胞は同じ遺伝物質を持っているにもかかわらず、性質や機能が異なるようになる。今回の発見で、DNAそのものの中にはコード化されていないがゲノムに影響を与える外部要因、つまりエピジェネティクスの役割について、さらに理解を進めることができる。DNAメチル化パターンは、遺伝子のスイッチがオン・オフするあらゆる現象スペード花の鮮やかな彩色からがん性腫瘍の成長までスペードに関わっている。環境的要因もまた後成的変化を促進して将来の世代に影響を与える可能性がある。例えば、妊婦が喫煙するかしないかは、胎児に後成的変化を起こす原因となる。 Assaf Zemachらは、DNAのメチル化パターンやメチル基を検出する配列決定法を用いて、植物5種、菌類5種、動物7種のゲノムについてDNAメチル化を分析した。その結果、有性生殖し広範囲にDNAメチル化がみられる陸生動植物とは異なり、無性生殖する単細胞動物や菌類では、DNAメチル化が全くといっていいほど認められないことがわかった。DNAメチル化は進化の歴史では非常に古いが、突然変異の確率も増加させる。このため生物の中ではDNAメチル化の消失がかなり多くみられ、菌類では進化の初期、動植物ではもっと後になって起っている。しかし今回の研究から、陸生動植物のゲノムではまだメチル基があちこちに多数残存していることが明らかになり、有性生殖するもっと複雑な生物においてDNAメチル化は、突然変異の危険性があるにも関わらずまだ重要であることが示唆された。

"Genome-Wide Evolutionary Analysis of Eukaryotic DNA Methylation," by A. Zemach; I.E. McDaniel; P. Silva; D. Zilberman at University of California, Berkeley in Berkeley, CA.


Translational Medicine 4月14日号: 糖尿病の管理:あなたの人工膵臓が実現する
Controlling Diabetes: Meet Your Artificial Pancreas

体内の血糖バランスを保つためのコンピュータアルゴリズムを活用した人工膵臓が、I型糖尿病患者のより優れた疾患管理に役立つ可能性がある。同装置は、最終的には、十分装用できる大きさの人工膵臓システムに装備されたコンピュータチップで作動するようになり、現在世界中で糖尿病と共に生きている約2億8千5百万人の治療に革命をもたらすかもしれない。I型糖尿病では、体内の血糖値を厳密に制御するための十分な量のインスリン(血糖降下ホルモン)の産生や、十分な量のグルカゴン(血糖上昇ホルモン)の分泌が肝臓で行われない。現在のところ、患者が健康を保つための唯一の手段は、血糖値の一時的な低下や急激な上昇を防ぐために、微妙な血糖バランスを人工的に維持することである。そのためには、日夜の頻繁な自己血糖測定とインスリン注射に加え、厳格な食事制限と運動が必要である。生活習慣に気を配っていても、患者の血糖が危険域まで低下する場合があり、この状態は低血糖として知られている。 以前の人工膵臓を開発する試みは、インスリンの供給だけに焦点を当てていたために、低血糖を防ぐことができなかった。今回Firas El-Khatibらは、必要に応じてインスリンとグルカゴンの両方を供給できる、正常な膵臓を厳密に模した人工膵臓を開発した。この「膵臓」は、持続血糖モニター、各ホルモンを皮下注入する2つのポンプ、および常にこの2つのポンプ同士を「相談」させて患者が必要とするインスリンまたはグルカゴンの量を算出するコンピュータプログラムを実行するラップトップで構成されている。研究者らは、この人工膵臓を用いて、研究参加者全員における低血糖を伴わない血糖コントロールに成功した。同研究では低血糖も認められなかった。ラップトップの代わりに小型チップでコンピュータプログラムを実行できる、さらに小型の人工膵臓に関する試験が現在進行中である。関連するPerspective記事では、正常血糖値の維持という糖尿病の最大の目標を達成するためのこの新たな技術やその他のアプローチ法に関連するベネフィットと課題について考察している。

"A Bihormonal Closed-Loop Artificial Pancreas for Type 1 Diabetes," by F.H. El-Khatib; E.R. Damiano at Boston University in Boston, MA; S.J. Russell; D.M. Nathan; R.G. Sutherlin at Massachusetts General Hospital in Boston, MA; S.J. Russell; D.M. Nathan; R.G. Sutherlin at Harvard Medical School in Boston, MA.



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