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2011年02月06日

科学誌サイエンス 2010年 4月 9日


Homo(ヒト)属と同じ形質を持つ新たなホミニド(ヒト科)
New Hominid Shares Traits with Homo Species


南アフリカの洞窟で2体の部分的な化石骨が発見された。それらがこれまでにある分類には該当しないホミニドであったことから、私たちの種、Homo sapiens(ホモサピエンス)の進化過程の解明に今、新しい光が投じられようとしている。この新たに確認されたAustralopithecus sedibaと呼ばれる種は直立歩行で、現在知られている中では最も古いHomo属と同じ身体的特徴を多数持っている。この発見を化石記録として調査することで、何をヒトと分類するかという重大な問いの一部に答えが得られるであろう。Bergerらは南アフリカのMalapaの洞窟堆積物の中から2体の部分的な化石骨を発見し、この新しい種の頭蓋骨の大部分、骨盤、足首などを含むその発掘物を分析した。195万〜178万年前のものと思われる2体の Australopithecus sediba‐成人女性と少年‐は腐肉食動物から守れられた洞窟系の1つの中で寄り添って発見されたため、保存状態は極めて良かった。研究者らはこのホミニドの身体的特徴を説明するうえで、初期Homo属と共通する骨盤の独特な特徴と小さな歯を強調している。また、その体型から判断してこの新しい種は Australopithecus Africanusの子孫だと思われ、彼らの出現はより効率の良い歩行と走行の始まりを表わしていると述べている。Paul Dirkと世界各国の研究者らはMalapaの洞窟系の調査結果、化石堆積物の年代、および、遠い過去にAustralopithecus sedibaが住んでいたと思われる地質学的環境および生態学的環境について説明している。研究者らは洞窟から剣歯虎・野生のネコ・カッショクハイエナ・野生のイヌ・アンテロープ・ウマなど、少なくとも25の他の動物種の化石も確認した。彼らによると、Australopithecus sedibaの化石が埋まったとき、Malapa洞窟の深さは推定数十メートルで、この洞窟住居は水を求める動物にとっての死の落とし穴であった可能性があるという。

"Australopithecus sediba: A New Species of Homo-like Australopith from South Africa," by L.R. Berger; D.J. de Ruiter; S.E. Churchill; P. Schmid; K.J. Carlson; P.H.G.M. Dirks; J.M. Kibii at University of the Witwatersrand in Johannesburg, South Africa; D.J. de Ruiter at Texas A&M University in College Station, TX; S.E. Churchill at Duke University in Durham, NC; P. Schmid at University of Zurich in Zurich, Switzerland; K.J. Carlson at Indiana University in Bloomington, IN; P.H.G.M. Dirks at James Cook University in Townsville, QLD, Australia.


腫瘍の中心へ薬物を送達するペプチド
Delivering Drugs to the Heart of a Tumor

がん治療用に開発された薬剤の多くは腫瘍組織への浸透性が低いため、その効能にはこれまで限界があった。しかし今回の新たな研究により、特定のペプチドが、健常細胞への毒性を高めることなく最も手強い腫瘍組織に抗がん剤を浸透させることができる仕組みが明らかにされた。Kazuki Sugaharaらは、これまでに、iRGDという腫瘍浸透性ペプチドに薬剤を化学的に結合することにより、マウスに移植された腫瘍の血管外組織にその薬剤を送達できることを報告していた。今回は、引き続きマウスを用いた実験により、iRGDペプチドを薬剤と結合させず、ただ一緒に投与するだけで薬剤の送達および抗腫瘍活性を大幅に促進できることを実証した。この投与法の優れた点は、薬剤の化学的結合を回避できることにある。なぜなら、薬剤を化学変化させると薬剤活性がしばしば阻害されるからである。Sugaharaらは、ドキソルビシン、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル、ドキソルビシンリポソーム、治療用抗体トラスツズマブ(ハーセプチン)など、様々な分子サイズの抗がん剤を用いて、iRGDとの併用療法試験を行った。この治療法がヒトのがんにも有効であるかどうかは、今後の研究が待たれるところである。
"Co-Administration of a Tumor-Penetrating Peptide Enhances the Efficacy of Cancer Drugs," by K.N. Sugahara; T. Teesalu; V.R. Kotamraju; L. Agemy; E. Ruoslahti at University of California, Santa Barbara in Santa Barbara, CA; P.P. Karmali; E. Ruoslahti at Sanford-Burnham Medical Research Institute in La Jolla, CA; D.R. Greenwald at Cancer Center of Santa Barbara in Santa Barbara, CA.


金星のホットスポット火山
Hotspot Volcanoes on Venus


金星に最近火山活動があったことを示す新たな証拠を手がかりにして、過去10億年にわたる金星地表の更新を解明できるかもしれない。さらには、地球の最近傍にある惑星の気候変動およびコアダイナミクスの理解につながる可能性がある。Suzanne Smrekarらは探査機ビーナス・エクスプレスから送られてきた地表熱データを使って、金星にある3カ所のホットスポットを調査した。ホットスポットとはハワイ諸島のように、マントルプルーム(上昇する大量の高温の溶岩)の真上に位置し、火山活動が現在最も起こりやすいと考えられる場所のことである。調査の結果、3ヵ所のホットスポットにおける溶岩流は、その周辺部に比べて異常に大きな熱量を放出していることがわかった。これは、金星の過酷な気候による溶岩崩壊がそれほど起こっていないことを意味している。つまり、これらのホットスポットは最近活動のあった火山であり、溶岩流は250万年以内のものだということになる。

"Recent Hotspot Volcanism on Venus from VIRTIS Emissivity Data," by S.E. Smrekar at Jet Propulsion Laboratory in Pasadena, CA; E.R. Stofan at Proxemy Research in Laytonsville, MD; N. Mueller at Westfalische Wilhelms-Universitat Muenster in Muenster, Germany; A. Treiman at Lunar and Planetary Institute in Houston, TX; L. Elkins-Tanton at Massachusetts Institute of Technology in Cambridge, MA; N. Mueller; J. Helbert at German Aerospace Center in Berlin, Germany; P. Drossart at CNRS in Paris, France; P. Drossart at Université Paris-Diderot in Paris, France; G. Piccioni at INAF-IASF in Rome, Italy.


真似をするのは有益である
It Pays to Be a Copycat


新しい研究により、仮に全く何の知識もない新しい環境に移るとするならば、自分自身の考えを試すより他者の行動を真似る方がおそらく短時間で生き残るすべを習得できるということが示された。「社会的学習」は実際に広く行われており、一般的に人間の成功を握る鍵であると認識されている。しかしLuke Rendellと共著者らによると、他者の模倣が益をもたらす理由や最善の模倣方法については依然として謎である。たとえば、模倣によって試行錯誤型学習に伴う手間やリスクは回避できるものの、その一方で、環境に急激な変化や予測不可能な変化が起きた場合には、入手した情報は時期遅れということになる。 RendellらはRobert Axelrodの有名な実験(Science、1981年3月27日号掲載)を手掛かりにコンピュータトーナメントゲームを作成した。そのトーナメントではプレーヤーは社会的学習とその他の戦略を組み合わせてゲームの必勝法を提案する。ゲームは100のアームのついたスロットマシンに似ており、プレーヤーは複数のラウンドの間に状況の変化にしたがって「新たな手法を採る」(試行錯誤型アプローチ)、「観察する」、「利用して利益を得る」(実際に報酬を受けられる唯一の方法)を選択できる。ゲームに勝てた戦略では専ら社会的学習に依存し、また、どれほど前に入手した情報であるかという点で情報を検討していた。これこそ人間が他の動物よりも得意とする部分である。

"Why Copy Others? Insights from the Social Learning Strategies Tournament," by L. Rendell; L. Fogarty; K.N. Laland at University of St. Andrews in St. Andrews, UK; R. Boyd at University of California, Los Angeles in Los Angeles, CA; D. Cownden; T. Lillicrap at Queen's University in Kingston, ON, Canada; M. Enquist; K. Eriksson; S. Ghirlanda at Stockholm University in Stockholm, Sweden; K. Eriksson at Malardalen University in Vasteras, Sweden; M.W. Feldman at Stanford University in Stanford, CA; S. Ghirlanda at University of Bologna in Bologna, Italy.


Translational Medicine 4月7日号: もし喫煙者の肺が話せたら:がんの密告経路
If Smoky Lungs Could Talk: A Telltale Pathway to Cancer

現喫煙者や元喫煙者の肺の“密告”生化学経路から、肺がん高リスク者を特定できることが発見された。驚いたことにこの経路は、がんの発生前に巻き戻すことができる。経路を伝わるシグナルは、高リスクの喫煙者において初の有効な肺がん予防標的となるだろう。これは肺がんの早期発見において、重要な一歩である。米国内の現・元喫煙者9000万人のうち肺がんになりうる喫煙者の10%〜20%には現在、肺がんを発見するてだてがないからだ。全世界で年間1000万人以上が死亡するがんのうち、男女ともに米国のみならず世界中で最も多い肺がんに対し、膨大になりつつある公衆衛生の負担を軽減するうえで、今回の発見は役立つと思われる。この研究でAdam Gustafsonらは、肺がん高リスクの喫煙者はもとより肺がんの有無を問わず喫煙者から主要な肺気道の細胞を採取し、様々ながん関連経路に関わる遺伝子の発現量を測定した。その結果、肺がんを発症していない喫煙者に比べて、気道にがん病変もしくは肺がんを有する喫煙者の気道では、特異的ながん関連経路であるPI3K経路が高レベルで活性化されていることがわかった。 さらに重要なことには、ミオイノシトールの投与後にがん病変が鎮静化した高リスク喫煙者の気道において、PI3K経路の活動が減少していることが明らかになった。ミオイノシトールは、PI3K経路を阻害することで肺がん治療薬となる可能性が高い薬剤である。将来的には、PI3K活性を測定する手法はタバコの煙にさらされた鼻や口などの他の細胞にまで応用できるようになり、肺がん集団検診に役立つ可能性がある。

"Airway PI3K Pathway Activation Is an Early and Reversible Event in Lung Cancer Development," by A.M. Gustafson; C. Anderlind; X. Zhang; G. Liu; J. Brody; M.E. Lenburg; A. Spira at Boston University Medical Center in Boston, MA; A.M. Gustafson; M.E. Lenburg; A. Spira at Boston University in Boston, MA; R. Soldi; K. Cooper; D. Walker; A.H. Bild; M.B. Scholand at University of Utah in Salt Lake City, UT; J. Qian; P.P. Massion at Vanderbilt-Ingram Comprehensive Cancer Center in Nashville, TN; J. Qian; P.P. Massion at Nashville Veterans Affairs Medical Center in Nashville, TN; A. McWilliams; S. Lam at British Columbia Cancer Agency in Vancouver, BC, Canada; E. Szabo at National Cancer Institute in Bethesda, MD; M.E. Lenburg; A. Spira at Boston University School of Medicine in Boston, MA.



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2011年01月30日

科学誌サイエンス 2010年 4月 2日


強力な免疫反応でも阻止できないサイトメガロウイルス
Strong Immune Response Can't Keep CMV Down


サイトメガロウイルス(CMV)は、世界中の非常に多くの人々に感染している。感染しても通常全く無症状であるが、新生児や免疫系が低下した者は極めて危険になることがある。このため研究者は、CMVワクチンの開発を最優先にしてきたが、未だその成功には至っていない。新知見によって、何故ワクチン開発が困難であるのかが明らかになり、さらに、ワクチンの可能性は極めて低いもののCMVを他のワクチンのベクターとして活用できるのではないか、と示唆されている。今回の研究でScott Hansenらは、このウイルスが、既に感染している宿主に対し、強力で特異的な免疫反応が存在しているにも関わらず、「重複感染(superinfection)」しうる仕組みを明らかにした。著者らはアカゲザルを用いて、CMVがCD8+ T細胞による免疫反応過程を回避し重複感染を確立していることを発見した。この免疫反応と相互作用するタンパク質を欠損した変異ウイルスでは、初感染が確立できたが、重複感染は確立できなかった。既存の免疫ではCMVを抑止できない事実から、このウイルスのワクチン開発が非常に困難であることが窺える。しかし同ウイルス以外のワクチンの開発では、まずCMVを遺伝子操作し、同一患者の体内で別の病原菌への免疫反応を引き出すために繰り返し使用できるベクターとして開発できるだろうと考えられる。関連するPerspective記事で、この研究について考察が行われている。

"Evasion of CD8+ T Cells Is Critical for Superinfection by Cytomegalovirus," by S.G. Hansen; C.J. Powers; R. Richards; A.B. Ventura; J.C. Ford; D. Siess; M.K. Axthelm; J.A. Nelson; M.A. Jarvis; L.J. Picker; K. Früh at Oregon Health and Science University in Beaverton, OR; C.J. Powers at Salk Institute for Biological Studies in La Jolla, CA.


海底はその下にあるものに適応する
Seafloor Adjusts to What Lies Beneath

海底は一定の割合で移動しており、海洋深度はその海底が形成された年代によって異なると推測されてきた。ところが今回、太平洋の深度は、年代ではなく、地核下にある高温のマントルの動きに合わせて上昇と下降を繰り返していることが新たに報告された。Claudia AdamとValérie Vidalは太平洋全体を覆う770ヵ所以上の海底深度を調査測定し、マントルが地下を流れている場所として知られる、固い岩盤層である海洋岩石圏の活動について調べた。このような「流動線」に沿って、研究者らが海洋深度とマントル対流との直接的な関わりについて計算した結果、この岩石圏は長い歳月をかけてその下を流れるマントルに適した形状に変化することが明らかになった。この知見は、岩石圏が年月とともに冷却されて沈下すると推測されてきたこれまでのモデルを簡明にするだけでなく、研究者らにとっても大きな価値のある、利用可能なデータセットを提示することにつながる。Perspective記事で Maya Tolstoyは海底深度の新しいモデルについて説明している。

"Mantle Flow Drives the Subsidence of Oceanic Plates ," by C. Adam at Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology in Yokosuka, Japan; C. Adam at Universidade de Évora in Évora, Portugal; V. Vidal at Université de Lyon in Lyon, France; V. Vidal at Ecole Normale Supérieure de Lyon in Lyon, France; V. Vidal at CNRS in Lyon, France.


ナノマシンの潤滑剤は厚みがあるほど良い
For Lubricants in Nanomachines, Thicker May Be Better


グラファイトのような固形物質の薄膜を用いて、極小機械やナノスケールの機械の可動部分を潤骨化できることが新しい研究によって示された。油などの従来の液体の潤滑剤は、可動部分の接触点から染み出てしまうため、選択肢に入っていない。Changgu Leeとアメリカとヨーロッパの研究者らは、原子1個分の厚さしかない材質に摩擦がどのような影響を及ぼすのかについて究明した。Leeらは、実質二次元になるほど薄く種々の電気的特性を備えた材質4種の上にシリコンチップを固定した。どの材質もフィルムが薄くなるほど摩擦が増加したことから、この傾向が普遍的であり特定の材質に限ったものではないことが示された。フィルムが厚いほどしわや波紋ができにくくなり、接触面が減って最終的に摩擦が減少すると考えられる。実験で用いた材質のひとつのであるグラフェンをマイカにのせると、強力に接着し摩擦の増大が抑制された。関連するPerspective記事では、今回の観察結果と微小電気機械システムの場合の予測結果について考察している。

"Frictional Characteristics of Atomically Thin Sheets," by C. Lee; W. Kalb; J. Hone at Columbia University in New York, NY; Q. Li; R.W. Carpick at University of Pennsylvania in Philadelphia, PA. X.-Z. Liu at Leiden University in Leiden, Netherlands. H. Berger at Ecole Polytechnique Fédérale de Lausanne in Lausanne, Switzerland.


花の力
Flower Power


春に花が咲くのは、暖かな日差しのおかげ ―― そして咲く花は、予想よりはるかに複雑な分子シグナル系のおかげでもあることが、新しい研究により明かになった。転写因子APETALA1(AP1)は、シロイヌナズナ(Arabidopsis)において栄養生長から花成への移行を制御している。これまでAP1を制御する要因はわずかしか特定されておらず、AP1が制御する標的も一部しか特定されていなかった。Kerstin Kaufmannと共著者らの国際チームは今回、全ゲノムマイクロアレイ解析を行って、AP1によって転写が制御されている遺伝子を1000個以上確認した。さらに、AP1の標的である可能性のある遺伝子も2000個以上特定した。この相互作用系を著者らが分析したところ、AP1の機能は最初に生長のアイデンティティを抑制し、次に花を生じさせる組織が定着するのを助け、最後に花芽分化を行うということがわかった。

"Orchestration of Floral Initiation by APETALA1," by K. Kaufmann; J.M. Muiño; G.C. Angenent at Plant Research International in Wageningen, Netherlands; K. Kaufmann at Wageningen University in Wageningen, Netherlands; F. Wellmer; S.E. Wuest at Trinity College in Dublin, Ireland; T. Ferrier; J.L. Riechmann at Center for Research in Agricultural Genomics (CRAG) in Barcelona, Spain; V. Kumar; E.M. Meyerowitz; J.L. Riechmann at California Institute of Technology in Pasadena, CA; A. Serrano-Mislata; F. Madueño at Universidad Politécnica de Valencia in Valencia, Spain; A. Serrano-Mislata; F. Madueño at Consejo Superior de Investigaciones Cientificas (CSIC) in Valencia, Spain; P. Krajewski at Polish Academy of Sciences in Poznan, Poland; G.C. Angenent at Centre for BioSystems Genomics (CBSG) in Wageningen, Netherlands; J.L. Riechmann at Institució Catalana de Recerca i Estudis Avançats in Barcelona, Spain.


Translational Medicine 3月31日号: 癌への手掛かり:循環腫瘍細胞を捕捉する
A Clue to Cancer: Capturing Circulating Tumor Cells

マイクロ流体細胞捕捉技術の向上により、血液中を循環するまれな癌細胞を検出、測定できるようになった。これにより、腫瘍摘出後の患者をモニタリングする方法が得られ、最終的には治療の指針となる可能性があることが新たな研究で報告された。この知見は、循環腫瘍細胞が数は少なくとも重要なマーカーとなり、医師が癌進行の変化を迅速に発見し、その治療が奏効しているかどうかを見極めるうえで役立つ可能性があることを示している。癌患者は、過去に摘出した固形癌の著しい再発がみられ、体内の複数の部位に広がった場合、大打撃を受けることが多い。種をまくように腫瘍を漂わせ、新たな腫瘍へと成長する可能性を持って血液中を循環する細胞の存在は、癌が身体の他の部位に広がる可能性を医師に示唆している場合がある。今回 Shannon Stottらは、前立腺癌患者とそうでない人からなる小さなコホートで、画像診断システムをマイクロ流体細胞捕捉装置と組み合わせて循環腫瘍細胞を検出、測定した。 循環腫瘍細胞は、血液中で他の細胞群の中でも目立つような特有の表面タンパク質を発現する。このタンパク質に付着する抗体を用いると、マイクロ流体装置により同細胞を捕捉することが可能となる。次に、癌が身体の他の部位にまだ広がっていない患者で循環腫瘍細胞の位置を正確に特定できるように、細胞を別の標識抗体を用いて染色する。この研究で研究者らは、前立腺癌患者から循環腫瘍細胞を採取し、手術前後に細胞を観察した。その結果、一部の患者では循環腫瘍細胞が術後速やかに消失しているのに対し、他の患者では数ヵ月後も残存していることを発見した。こうした隠れた腫瘍細胞の残存や消失が、癌の再発に影響するかどうか、また同細胞の消失の経時的変化が、より浸潤性の高い早期前立腺癌のマーカーとなるかを見極めるには、さらなる研究が必要である。

Article: "Isolation and Characterization of Circulating Tumor Cells from Localized and Metastatic Prostate Cancer Patients," by S.L. Stott; R.J. Lee; S. Nagrath; M. Yu; D.T. Miyamoto; L. Ulkus; E.J. Inserra; M. Ulman; S. Springer; Z. Nakamura; A.L. Moore; D.I. Tsukrov; M.E. Kempner; D.M. Dahl; C.-L. Wu; A.J. Iafrate; M.R. Smith; R.G. Tompkins; L.V. Sequist; M. Toner; D.A. Haber; S. Maheswaran at Massachusetts General Hospital in Boston, MA; S.L. Stott; R.J. Lee; S. Nagrath; M. Yu; D.T. Miyamoto; L. Ulkus; E.J. Inserra; M. Ulman; S. Springer; Z. Nakamura; A.L. Moore; D.I. Tsukrov; M.E. Kempner; D.M. Dahl; C.-L. Wu; A.J. Iafrate; M.R. Smith; R.G. Tompkins; L.V. Sequist; M. Toner; D.A. Haber; S. Maheswaran at Harvard Medical School in Boston, MA; S.L. Stott; S. Nagrath; D.M. Dahl; R.G. Tompkins; M. Toner at Shriners Hospital for Children in Boston, MA.



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2011年01月23日

科学誌サイエンス 2010年 3月 19日


土星とそのリングのより詳細をみる
A Closer Look at Saturn and its Rings


アメリカ航空宇宙局NASA、欧州宇宙機関ESAとイタリア宇宙事業団ASIの共同計画である土星探査機カッシーニからのデータは、土星という惑星をこれまでにないほど、明確に映し出している。約6年にわたる観測により、ガスの惑星、多数の衛星や華美なリング(これは、図らずも太陽系で最も複雑で大規模である)の研究が進んだ。2つの個々のレビューが今週のハイライトに掲載されている。土星のもっとも新しく詳細な絵を描くために、最新のカッシーニのデータとボイジャーからの数十年前のデータを、最近の地上観測に結合したものである。まず、Jeffrey Cuzziらは、氷粒子を主成分とした土星を取り巻くリングシステムについて焦点をあて、さらにリングの多くの層の詳述している。カッシーニの近赤外観測に基づき、研究者らは、リングシステムの汚れた部分ともいえる魅惑の赤みを帯びた彩色は、炭素からなるリングの小さなクラスターか、もしくは負に帯電したイオン成分に起因している可能性があると述べている。Jeffrey Cuzziらはまた、リングの特徴が定常的に変化している力学を詳しく述べ、さらに年、月、数日という極めて短いタイムスケールで発生する構造変化の進化過程を記述している。Cuzziらは、土星のリングに影響されておこる多くのプロセスは、新しい惑星の前兆である原始惑星円盤でも観測可能であると述べている。 Tamas GombosiとAndrew Ingersollによるレビュー記事では、惑星の大気や電離圏、磁気圏に関する新しくユニークな詳細を明らかにしている。カッシーニ搭載の機器を用いることで、研究者らは、土星の大気に影響を与えるジェット気流や風速を分析し、土星でとどろく雷の音を調べた。彼らは、太陽風が惑星の磁場と相互作用することで惑星の周りに生じる、土星の磁気圏について記述している。これは、太陽系の中の他のどんな惑星にも似つかない、木星の磁気圏と地球の磁気圏の間の特徴的な合成物からなる。

"An Evolving View of Saturn's Dynamic Rings," by J.N. Cuzzi at NASA Ames Research Center in Moffet Field, CA; J.A. Burns; M.M. Hedman; P.D. Nicholson; M.S. Tiscareno at Cornell University in Ithaca, NY; S. Charnoz at Université Paris Diderot in Gif sur Yvette, France; S. Charnoz at CEA in Gif sur Yvette, France; S. Charnoz at CNRS in Gif sur Yvette, France; R.N. Clark at U.S. Geological Survey in Denver, CO; J.E. Colwell at University of Central Florida in Orlando, FL; L. Dones at Southwest Research Institute in Boulder, CO; L.W. Esposito; M. Sremcevic at University of Colorado, Boulder in Boulder, CO; G. Filacchione at Istituto di Astrofisica Spaziale e Fisica Cosmica in Rome, Italy; R.G. French at Wellesley College in Wellesley, MA; S. Kempf; R. Srama at Max-Planck-Institut für Kernphysik in Heidelberg, Germany; E.A. Marouf at San Jose State University in San Jose, CA; C.D. Murray at Queen Mary University of London in London, UK; C.C. Porco; J.N. Spitale; J. Weiss at Space Science Institute in Boulder, CO; J. Schmidt at University of Potsdam in Potsdam, Germany; M.R. Showalter at SETI Institute in Mountain View, CA; L.J. Spilker at Jet Propulsion Laboratory, California Institute of Technology in Pasadena, CA; J. Weiss at Carleton College in Northfield, MN.


公平にふるまうのは生まれつきではない?
Not Hard-Wired to Play Fair?


他人に対しても公平を貫くという人間の動機には各社会によって大きな差があり、単に石器時代の祖先から受け継いだ生得的な心理であるとは説明がつかないことが、新しい研究により示唆された。多くの室内試験の結果、産業化された社会の人々は、一般的に見知らぬ人との社会的交流、とりわけ経済的交流をともなう場合には公平にふるまい、不公平な行動をとる人を罰する傾向にあることが示された。しかし、被験者同士は他人であり、しかも面識すらないことを考えると、これはなぜなのだろうか。 Joseph Henrichらは、現代の15の小規模社会に属する数千人を対象に独裁者ゲーム、根本原理ゲーム、第三者罰ゲームという3つの経済ゲームを用いて彼らの公平性を評価した。その結果、「公平な行動をとる」可能性は、市場参加や世界的な宗教への関与の度合いと共に上昇することが判明した。また、大規模社会に属する人々では公平に行動しない人々を罰する傾向も見られた。この分野の研究者らは、人々が私利私欲で行動するのではなく公平に行動する理由として2つの解釈を挙げている。1つ目は、この生得的な行動は一族生存のために血縁関係や血縁者との互酬関係が重要であった旧石器時代の小規模社会に生きた祖先の遺風であるという解釈、そして今回の研究結果が支持するもう1つの解釈は、こういった公平にふるまうという行為が、社会の複雑化にともない歴史を通して浮上してきた新たな社会規範と慣行の台頭(市場取引の拡大や世界的な宗教の普及など)を反映するものであるというものである。これらの研究結果について関係する Perspective記事で論じている。

"Markets, Religion, Community Size, and the Evolution of Fairness and Punishment," by J. Henrich at University of British Columbia in Vancouver, BC, Canada; J. Ensminger at California Institute of Technology in Pasadena, CA; R. McElreath at University of California, Davis in Davis, CA; A. Barr at University of Oxford in Oxford, UK; C. Barrett at University of California, Los Angeles in Los Angeles, CA; A. Bolyanatz at College of DuPage in Glen Ellyn, IL; J.C. Cardenas at Universidad de Los Andes in Bogota, Colombia; M. Gurven at University of California, Santa Barbara in Santa Barbara, CA; E. Gwako at Guilford College in Greensboro, NC; N. Henrich at Centre for Health Evaluation and Outcome Sciences, Providence Health Care Research Institute in Vancouver, BC, Canada; C. Lesorogol at Washington University in St. Louis, MO; F. Marlowe at Florida State University in Tallahassee, FL; D. Tracer at University of Colorado, Denver in Denver, CO; J. Ziker at Boise State University in Boise, ID.


三次元の「突起」を隠す目に見えないマント
3-D Invisibility Cloak Hides Gold “Bump”


ヒトの目にはほとんど見えない光を用いて、研究者らは物質を検出できなくするような三次元の透明なマントを創りだした。この発見は、今後、科学者らを完璧な三次元の透明マントの製作へと一歩近づけ、さらに変換光学の分野に新たな知見をもたらすであろう。これを可能にしたのは、メタマテリアルと呼ばれる新しい物質である。これにより、光を今までにはないような方向へ自在にコントロールすることが可能になった。この研究で、Tolga Erginらは透明なマントを創りだすために、木材を積み重ねたような構造のフォトニック結晶を利用した。彼らはマントで金の表面の小さな突起を覆い隠し、(ちょうどカーペットの下にある小さな物体を覆うような方法で)今回はそのカーペットまで消し去ってしまった。その「マント」は光が突起から分散するのを抑制することで、光の波長を部分的に屈折することができる特殊レンズにより構成されている。

"Three-Dimensional Invisibility Cloak at Optical Wavelengths," by T. Ergin; N. Stenger; P. Brenner; M. Wegener at Karlsruhe Institute of Technology in Karlsruhe, Germany; J.B. Pendry at Imperial College London in London, UK.


またひとつ明らかになった思春期の謎
What Part of Puberty Don’t We Understand?


思春期に入ると勉強しなくなる、というのはジョークではない。思春期に学習能力が低下することは、これまでも多く報告されているが、今回マウスを用いて、思春期に学習過程を減速させる原因の一端が細胞および分子レベルで明らかにされた。Hui Shenらは、強力な顕微鏡検査、薬理学・生理学検査、行動テストを併用し、思春期に脊椎シナプス周辺に発現する受容体複合体が海馬の活動に影響を及ぼし学習力を低下させていることを発見した。この特定のGABA¬¬¬A受容体(GABAR)は思春期のマウスに発現し、ニューロン間のコミュニケーションに非常に重要な海馬へのシグナルを妨害した。その結果、若齢マウスでは、年長マウスと比べて行動試験で空間学習能力が低下する兆候が認められた。また、通常は加齢に伴い学習能力を低下させる特殊なストレスステロイド(THP)が、実は思春期が引き起こす学習障害を回復させることも明らかになった。このことから著者らは、THPを使って、思春期に鈍化したニューロン機能を回復させることができるだろう、と示唆している。

"A Critical Role for Alpha4-Beta-Delta GABAA Receptors in Shaping Learning Deficits at Puberty in Mice," by H. Shen; N. Sabaliauskas; A. Sherpa; A.A. Fenton; A. Stelzer; S.S. Smith at State University of New York (SUNY) Downstate Medical Center in Brooklyn, NY; N. Sabaliauskas; C. Aoki at New York University in New York, NY.


気候は蛇行河川の形成を促進する
Climate Helps Carve River Meanders


河川の蛇行地形に対して、従来認められていなかった気候の影響が存在することが判明した。河川が流路の側面を削ってS字型に蛇行することに気候がどう関与するかを解明するのは難しい。特に、河川の地形は長期的な地殻変動によっても変わり得ることがその難しさの一因である。Colin Starkらは20〜30年間にわたる日本での台風による降雨記録と数値標高モデルの空間的相関関係を調査し、気候が河川の蛇行に直接的な影響を及ぼしていることを発見した。おそらくこれは、気候による流路側壁の基盤岩の脆弱化によるものだと考えられる。Starkらは調査分析対象を北太平洋西部にまで拡大し、河川の蛇行度が最も大きいのは豪雨や洪水が日常的に発生する亜熱帯地方で、豪雨や洪水がより少ない赤道付近の熱帯地方および中緯度地方の日本に行くほど蛇行度は減少することを発見した。この結果は、これまで提示されてきた地殻変動性隆起ではなく、基盤岩の強度が河川の蛇行を決める第2要因であることも示唆している。

"The Climatic Signature of Incised River Meanders," by C.P. Stark; J.R. Barbour at Lamont-Doherty Earth Observatory of Columbia University in Palisades, NY; Y.S. Hayakawa at University of Tokyo in Kashiwa, Japan; T. Hattanji at University of Tsukuba in Tsukuba, Japan; N. Hovius at University of Cambridge in Cambridge, UK; H. Chen at National Taiwan University in Taipei, Taiwan; C.-W. Lin at National Cheng Kung University in Tainan, Taiwan; M.-J. Horng at Ministry of Economic Affairs in Taipei, Taiwan; K.-Q. Xu at National Institute for Environmental Studies in Tsukuba, Japan; K.-Q. Xu at Wuhan University in Wuhan, China; Y. Fukahata at Kyoto University in Kyoto, Japan.


Translational Medicine 3月17日号: 漏れやすい血管の修復による敗血症予防
Patching Leaky Blood Vessels Offers Protection from Sepsis

マウスを使った新たな研究から、Slitというタンパク質が、細菌およびウイルス感染に対する身体反応に起因する致死的な疾患と闘うために有用であると報告された。この知見により、患者が重度の感染症を乗り切るための、体内のSlitタンパク質の供給を増強するような新薬開発の道が開かれた。先進国ですら、細菌性やウイルス性の感染症による患者の死亡率は依然として高く、炭疽菌(Bacillus anthracis)やMRSA(抗菌薬耐性黄色ブドウ球菌)のような進化した細菌や、H1NIやH5N1(トリインフルエンザ)のような致死的なウイルス株に常に直面している。敗血症が発症するのは、免疫系が細菌やウイルスと過剰に闘い始めた場合である。敗血症では、正常な炎症過程が抑制されるとともに、血管から体内に体液を漏出させるサイトカインというホルモンが大量に放出され、臓器不全や死をも招く。 敗血症はどの年齢でも発症しうるが、最も多いのは乳児、高齢者、慢性疾患患者や免疫不全患者である。標準的な治療としては、抗菌薬や患者に対する対処療法を行うが、効果がないことも多い。今回の実験でNyall Londonらは、マウスに細菌およびウイルス感染を生じさせ、血管漏出を評価した。次に、ペトリ皿上の細胞間の接触を強化することが以前に示されている Slitタンパク質が、マウスが重度の感染症を乗り切るうえで有用かどうかを検証した。腸細菌とH5N1インフルエンザのどちらに感染させた場合でも、 Slitタンパク質を投与したマウスでは、生存率が有意に改善した。著者らは、Slitタンパク質が細胞表面の粘着性物質を増量させることで作用し、穴だらけの血管壁を修復することを発見した。したがって、Slitのようなタンパク質は、漏れやすい血管のための強力瞬間接着剤として作用することで、サイトカイン・ストームと闘う有効な手段となり、自らの免疫攻撃に耐えるための身体能力を高めると考えられる。

"Surviving the Cytokine Storm in Sepsis and Influenza," by N.R. London; W. Zhu; C.P. Smith; L.K. Sorensen; L. Chen; Y. Kaminoh; A.C. Chan; S.F. Passi; G.A. Zimmerman; D.Y. Li at University of Utah in Salt Lake City, UT; F.A. Bozza at Instituto de Pesquisa Clínica Evandro Chagas & Lab de Imunofarmacologia in Rio de Janeiro, Brazil; D.M. Greif; M.S. Krasnow at Stanford University School of Medicine in Stanford, CA; C.W. Day; D.L. Barnard at Utah State University in Logan, UT. Contact: Dean Y. Li Ph: 801.585.5505 Cell: 801.231.1018 or by email at dean.li@hmbg.utah.edu co-authors available for interviews in Spanish, French, German, Mandarin, Cantonese, and Greek.



posted by gensou-choumazin at 03:46| Comment(0) | 科学誌サイエンス ハイライト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする