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2011年01月23日

科学誌サイエンス 2010年 3月 12日


家族単位のゲノム配列決定の明確性
The Clarity of Family-Based Genome Sequencing


家族(同胞とその両親)のゲノム配列を決定することで、ヒトでの自然突然変異の発生率の平均値が求められ、また、その同胞が罹患している病気に関与する遺伝子を特定することができた。これらの研究結果により、血縁関係のない人々の集団もしくは個人のゲノム配列決定とは対照的に、家族単位のゲノム配列決定には独自の利点があることが実証された。Jared Roachらはミラー症候群と原発性線毛運動不全症にそれぞれ罹患している同胞を含む4人家族のゲノム配列を提示している。彼らは、この家族を単位としたゲノム配列決定で、DNA配列決定にともなう「バックグラウンドノイズ」がいかに低減されたか、遺伝子の組換え、世代間の変異部位やまれに起こる突然変異の部位がいかに特定されたか、また、両疾患に関与する4つの候補遺伝子の特定に至った経緯を説明している。彼らの推定によると、ヒトでのランダム突然変異率は、間接的な観察から得られた以前の値よりも低い。また、候補遺伝子の特定により、ヒトゲノム上の疾患原因遺伝子の調査範囲がしぼられる。さらに Roachらは、家族単位のゲノム配列決定という方法は今後大多数の患者の医療記録に組み込まれることになると予想している。

"Analysis of Genetic Inheritance in a Family Quartet by Whole Genome Sequencing," by J.C. Roach; G. Glusman; A.F.A. Smit; C.D. Huff; R. Hubley; P.T. Shannon; L. Rowen; N. Goodman; L. Hood; D.J. Galas at Institute for Systems Biology in Seattle, WA; C.D. Huff; L.B. Jorde at University of Utah in Salt Lake City, UT; K.P. Pant; R. Drmanac at Complete Genomics, Inc. in Mountain View, CA; M. Bamshad; J. Shendure at University of Washington in Seattle, WA.


サリドマイドはなぜ四肢奇形をもたらすのか
Why Thalidomide Causes Limb Deformities

サリドマイドは1950-1960年代に、処方された女性から生まれた新生児の上下肢の奇形を引き起こしたことで悪評があるが、今日においてこの薬剤は癌である多発性骨髄腫や、ハンセン病の治療に用いられるに至っている。より安全なサリドマイド代替薬の開発を促しうる研究の過程で、日本の研究者らがどのようにしてサリドマイドが発生段階の四肢に異常をもたらすのかを明らかにした。研究者らはこれまでに数多くの仮説を提唱してきたが、この薬剤の作用機序は謎に包まれたままであった。ゼブラフィッシュやニワトリをモデル動物として用いることにより、伊藤拓水らはサリドマイドがタンパク質であるセレブロンに結合することを発見した。この結合は四肢の発達に重要なセレブロンの酵素活性を阻害する。著者らは、この作用を回避したサリドマイド派生薬の設計が可能になるだろうと述べている。

"Identification of a Primary Target of Thalidomide Teratogenicity," by T. Ito; H. Ando; K. Hotta; Y. Yamaguchi; H. Handa at Tokyo Institute of Technology in Tokyo, Japan; T. Suzuki at Tohoku University in Sendai, Japan; T. Suzuki at Japanese Science and Technology Agency in Saitama, Japan; T. Ogura at Tohoku University in Sendai, Japan; Y. Imamura at Astellas Pharma Inc. in Ibaraki, Japan.


適応度をかけて戦うカナリアの雛と母鳥
Canary Chicks and Their Mothers, Fighting for Fitness

親子が誕生の前後でどのように情報交換をしているかを明らかにする実験を通して、母鳥と雛のあいだに複雑なやり取りがあることがわかってきた。研究対象となったカナリアという鳥は、母鳥は雛のために自分のことをある程度犠牲にし、雛はできるだけ多くの餌をもらおうと盛んに鳴く。研究の結果、これらの行動はどちらも大きな負担になる可能性のあることが裏付けられ、また、カナリアは餌乞いと給餌の微妙なバランスを保つことで、できるだけ健康な子をできるだけ多く残そうとしていることが示された。Camilla Hindeらはカナリアの卵を別のつがいのものと取り換えて、誕生前に子が得る母鳥の手がかり(卵の中の母性ホルモンによってもたらされる)を狂わせた状況をつくり、餌をねだる生まれたての雛と「育ての」母鳥との関係を観察した。同研究チームは、雛の適応度の表れである成長速度と、母鳥の適応度の指標である翌年の産卵数とを調べた。その結果、実の雛よりも「育ての」雛のほうが餌乞いが少ない場合は、母鳥の翌年の産卵数が増えるのに対して、実の雛よりも「育ての」雛のほうが餌乞いが多い場合は、産卵数が減ることがわかった。これと同時に、母鳥が給餌を高度に調節する様子も観察された。母鳥は餌乞いの様子から雛の健康状態に関する重要な情報を得る一方で、子は誕生前に得る母鳥の手がかりによって親の性質を知ることが、理論と実験を組み合わせることで見事に実証された。Hindeらは、こうした親子の対立は双方にとって利益がある方向に解消されたのではないかと述べている。

"Parent-Offspring Conflict and Coadaptation," by C.A. Hinde; R.A. Johnstone; R.M. Kilner at University of Cambridge in Cambridge, UK.


今日の髪は明日の皮膚
Hair Today, Skin Tomorrow

研究者らの報告によると、皮膚のあらゆる細胞に分化する幹細胞は実際に毛嚢に存在する。そこで、これら幹細胞を利用することで、火傷を負った人などの創傷修復や皮膚移植に役立つ。皮膚には異なった3つの細胞集団、すなわち、毛嚢、皮脂腺、およびその間の組織である毛嚢間表皮がある。これら3つの集団のそれぞれにある幹細胞はそれ自体と同じ型の細胞を作り出すことができると考えられているが、他のあらゆる細胞に分化する元の幹細胞の正体は今まで謎であった。Hugo Snippertらは今回、毛嚢のクラスターにあってLgr6遺伝子を発現する幹細胞が元の表皮幹細胞であることを示した。皮膚創傷のある成体マウスでは、傷の側面にあるLgr6幹細胞が傷を修復した。これらの幹細胞が長期にわたる創傷修復で表皮と髪を新たに作り出したとSnippertらは報告している。

"Lgr6 Marks Stem Cells in the Hair Follicle That Generate All Cell Lineages of the Skin ," by H.J. Snippert; A. Haegebarth; J.H. van Es; N. Barker; M. van de Wetering; M. van den Born; H. Begthel; R.G. Vries; D.E. Stange; H. Clevers at Royal Netherlands Academy of Arts and Sciences in Utrecht, Netherlands; H.J. Snippert; A. Haegebarth; J.H. van Es; N. Barker; M. van de Wetering; M. van den Born; H. Begthel; R.G. Vries; D.E. Stange; H. Clevers at University Medical Center Utrecht in Utrecht, Netherlands; M. Kasper; R. Toftgard at Karolinska Institutet in Huddinge, Sweden; M. Kasper; R. Toftgard at Department of Biosciences and Nutrition in Huddinge, Sweden.


Translational Medicine 3月10日号: 特異的な遺伝子がHIVに対する障壁となる
Unique Genes Pose Challenge to HIV

新たな研究により、サルの免疫応答の多様性が高いほど、サル免疫不全ウイルス(SIV)(アフリカの霊長類から発見されたレトロウイルス)が効果的に制御されることが示された。この知見から、同様にヒトの免疫応答を多様化させることが、有効なHIVワクチンの開発を目指した継続中の取り組みを成功させる鍵となる可能性が示唆される。HIV感染者を対象としたいくつかの研究により、個別の患者における免疫応答の多様性が高い場合、特に免疫系のT細胞がHIVウイルスのより多くの構成要素を認識する場合に、同疾患が抑制される可能性が示されている。そこで、Shelby O’Connorらは、SIVの同一株に感染させたモーリシャスカニクイザルを使用して、免疫応答の多様性が高い場合、実際に疾患が効果的に制御されるかどうかを検討した。 MHC遺伝子は、外来からの異物をT細胞に認識させる分子をコードしている。上述のサルは、特にMHC遺伝子の遺伝的多様性が低いため、研究者が、特定の MHC遺伝子型について、ホモ接合体(同じ型の遺伝子を2つ持つ)の個体と、ヘテロ接合体(異なる型の遺伝子を2つ持つ)の個体を特定することができる。著者らは、特定の遺伝子型がホモ接合体のサル(特異的なMHC遺伝子が12個のみ)の血中ウイルス量が、多数の特異的なMHC遺伝子(約20個)を保有するヘテロ接合体のサルに比べ、約80倍であったことを報告した。研究者らは、これらのサルの体内で複製されたウイルスの配列を検討することにより、SIV に対する免疫応答の詳細な情報を入手した。このデータから、免疫応答の多様性が高いサルほどT細胞を多く産生し、これによりウイルスの複製能力がより効果的に抑制され、同疾患の進行が阻止されたことが示唆される。本研究は、MHC遺伝子の多様性が高いHIV感染者における同様の優位性を示した過去の知見に基づいており、HIVワクチンは、HIVに対する細胞免疫応答の多様性を最大限に引き出すように設計すべきであるという見解を支持するものである。

Article: "MHC Heterozygote Advantage in Simian Immunodeficiency Virus-Infected Mauritian Cynomolgus Macaques," by S.L. O'Connor; J.J. Lhost; E.A. Becker; A.M. Detmer; C.E. MacNair; R.W. Wiseman; J.A. Karl; J.M. Greene; B.J. Burwitz; B.N. Bimber; S.M. Lank; J.J. Tuscher; T.C. Friedrich; D.H. O'Connor at University of Wisconsin-Madison in Madison, WI; R.C. Johnson; M. Carrington at Science Applications International Corporation-Frederick in Frederick, MD; R.C. Johnson; M. Carrington at National Cancer Institute-Frederick in Frederick, MD; R.C. Johnson at Conservatoire National des Arts et Metiers in Paris, France; E.T. Mee; N.J. Rose at National Institute for Biological Standards and Control in Hertfordshire, UK; R.C. Desrosiers at Harvard Medical School in Southborough, MA; A.L. Hughes at University of South Carolina in Columbia, SC; M. Carrington at Massachusetts General Hospital in Boston, MA; M. Carrington at Massachusetts Institute of Technology in Boston, MA; M. Carrington at Harvard University in Boston, MA.



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2011年01月16日

科学誌サイエンス 2010年 3月 5日


メタンガスが予想以上に早く、大気へ放出されている
Methane Gas Leaking Faster Than Expected

世界中の海洋のこれまでの予想値から、メタンガスが、残留している永久凍土層もしくは凍結土壌、北極海の下から大気中へ漏れ出していると研究者らが報告している。この発見は、永久凍土層の地下水から放出されたメタンガスの量は、地上からの放出量よりも多いことを見落としていたことを明らかにしたが、研究者らは、同様に、もっと広範囲な放出源が将来の地球温暖化に劇的な影響を及ぼすだろうと予想する。Natalia Shakhovaらは、2003年から2008年まで毎年、ロシアの砕氷船に乗船し、東シベリアの北極海大陸棚の海水を調査した。(彼らはヘリコプターでも調査を行った。)5000回以上の念入りな大陸棚の海水観測の結果、Natalia Shakhovaらは海底水の80%と表層水の50%以上は、海底下の永久凍土起源のメタンで過飽和になっていることを報告している。 海底下の永久凍土層は大量の炭素を含んでおり、専門家はこれらがメタンガスを放出することで、大気の温度を上げて、これが正のフィードバックのループを引き起こし、さらに永久凍土層からメタンを放出させ、結果的に地球温暖化を加速している可能性があると懸念している。なぜなら、東シベリアの北極海大陸棚のメタンのフラックスは、現在すべての海洋を結合した値に匹敵しており、研究者らは、それらのデータを考慮すれば、すぐに北極の気候が近い将来、温暖化する可能性があると評価し、勧告した。 Perspective記事で、Martin Heimannは、これらの発見の詳細を説明している。

"Extensive Methane Venting to the Atmosphere from Sediments of the East Siberian Arctic Shelf," by N. Shakhova; I. Semiletov at University of Alaska, Fairbanks in Fairbanks, AK; N. Shakhova; I. Semiletov; A. Salyuk; V. Joussupov; D. Kosmach at Russian Academy of Sciences in Vladivostok, Russia; Ö. Gustafsson at Stockholm University in Stockholm, Sweden.


肥満に伴うメタボリックシンドロームとつながった腸内細菌
Gut Microbes Tied to Obesity-Related “Metabolic Syndrome”


腸内細菌とそれを制御する免疫系が、メタボリックシンドローム(糖尿病と心臓病のリスク上昇をもたらす肥満関連の代謝障害)の一因ではないか。その可能性が、新たなマウスの研究から示唆された。最近発見された腸内細菌の構成と肥満との関連を踏まえた研究の結果である。Matam Vijay-Kumarらによる新しい研究は、微生物病原体から身体を守る自然免疫系が、腸内細菌叢と代謝をむすぶ架け橋となっている可能性をうかがわせた。著者らは、重要な免疫系の要素であるTLR5というタンパク質を欠損したマウスが、特徴的なメタボリックシンドローム所見(体脂肪増加やインスリン抵抗性の亢進)に加え、腸内細菌叢の変化を示すことを発見した。また、変異マウスは正常マウスよりも食餌摂取量が多かった。変異マウスの腸内細菌を無菌マウス(腸内細菌の欠損以外は正常)に移入すると、細菌を受け取ったマウスにメタボリックシンドロームのいくつかの特徴が発現した。このことから、腸内細菌叢の変化が、メタボリックシンドロームの結果ではなく、原因のひとつである可能性が示唆された。さらに著者らは、変異マウスの腸から採取した細菌の遺伝子物質について一部を配列解析し、その結果に基づいて腸内バランスを崩した細菌群を同定した。同研究チームは、自然免疫系の異常がまず腸内細菌叢の変化を引き起こし、弱い炎症シグナル伝達を誘導すると、それがインスリン受容体シグナルに作用して食欲増進と食餌摂取量増加をもたらし、やがてメタボリックシンドロームの他の症状を誘発するのであろう、と提唱している。

"Metabolic Syndrome and Altered Gut Microbiota in Mice Lacking Toll-Like Receptor-5," by M. Vijay-Kumar; J.D. Aitken; F.A. Carvalho; S. Mwangi; S. Srinivasan; S.V. Sitaraman; A.T. Gewirtz at Emory University in Atlanta, GA; T.C. Cullender; R.E. Ley at Cornell University in Ithaca, NY; R. Knight at University of Colorado, Boulder in Boulder, CO; R. Knight at Howard Hughes Medical Institute in Boulder, CO.


なぜイガイ類の筋肉はこれほど強いのか
Why a Mussel's Muscles Are So Strong

顕微鏡による海産イガイ(二枚貝)の調査から、この軟体動物が海岸の岩に付着する際に用いる強い糸には、金属イオンが浸透した蛋白質の被膜があり、この被膜のおかげで糸は並外れた硬さと伸縮性とを兼ね備えていることが以前から知られていた。今後は、この海産イガイの足場になっている豊富な蛋白質が金属イオンと結合した生物学的構造を利用して、工業材料に求められるいくつかの特性(強靭性、自己修復、接着力など)をより精密に調整できるようになるかもしれない。Matthew Harringtonらがイガイ類の足糸(俗に「ヒゲ」と呼ばれるもの)をラマン顕微鏡で調べたところ、外膜には接着力の強いドーパという特殊なアミノ酸が豊富に含まれることを発見した。また、外膜には鉄イオンが特に多いこともわかった。研究者らはこれらの発見をもとに、この生物の足場のモデルを作成し、ドーパと鉄の架橋結合が密で糸に硬さをもたらす部分と架橋結合が粗で伸縮性をもたらす部分とがある、独特なクラスタリング分布を説明した。

"Iron-Clad Fibers: A Metal-Based Biological Strategy for Hard Flexible Coatings," by M.J. Harrington; A. Masic; P. Fratzl at Max Planck Institute for Colloids and Interfaces in Potsdam, Germany; N. Holten-Andersen; J.H. Waite at University of California, Santa Barbara in Santa Barbara, CA; N. Holten-Andersen at University of Chicago in Chicago, IL.


恐竜絶滅に関する小惑星衝突説、裏付けを得る
Impact Theory for Dino's Demise Stands Strong


約6,500万年前に恐竜などの生物を大量絶滅させた原因に関する相反する理論について種々の事象を調査した結果、さまざまな国の科学者から成る国際チームは、現在のメキシコ・チチュルブで起きた1回の小惑星の衝突がこの絶滅イベントの原因であると結論付けた。白亜紀‐古第三紀境界における生物大量絶滅は地球史上最大の絶滅イベントの1つであり、その小惑星の衝突の地質学的根拠は世界各地でその時期の岩石層から発見されている。その衝突が大量絶滅の原因であることは広く認められてはいるものの、異議を唱え続ける科学者らもおり、彼らはメキシコ湾で発見された微化石群からその衝突は絶滅のかなり前に起きたものであって、絶滅の主要原因ではあり得ないことが分かるなどの例を挙げている。この大量絶滅の主要原因としてはまた、この時期にインド・デカントラップの形成を招いた大規模な火山活動も挙げられている。Peter Schulteと国際研究チームはReview記事で小惑星衝突説を支持する地質学的根拠について総合的に論じている。彼らによると、そういった衝突によって地球全体に破壊的な衝撃波、大きな熱パルスおよび津波が瞬く間に発生した可能性があるという。さらに、ダスト、デブリおよびガスが大量に放出されたことで長期にわたる地球表面の冷却、少ない光量、海洋の酸性化が起り、それらに依存している光合成植物などの種を滅ぼしたと考えられる。

"The Chicxulub Asteroid Impact and Mass Extinction at the Cretaceous-Paleogene Boundary," by P. Schulte at Universität Erlangen-Nürnberg in Erlangen, Germany. Please see the manuscript for the complete list of authors and their affiliations.


Translational Medicine 3月3日号: 遺伝子治療で視力を回復
Restoring Eyesight with Gene Therapy


新たな動物実験から、成人までには全盲となる不治の遺伝性疾患であるレーバー先天黒内障(LCA)を、遺伝子治療により治療する可能性が注目されている。今回の結果から、両眼を治療した場合の遺伝子治療の安全性および有効性が実証された。昨年、革新的な臨床試験において、ほぼ全盲であった一群の小児で回復がみられた。この試験では、変異遺伝子を置換する遺伝子治療により、12例全員で片眼の視力が部分的に回復した。当然、この遺伝子治療試験での視力回復成功を受けて、患者らはもう片方の眼の治療も受けることを強く望んでいる。同研究者チームは今回、この患者らのもう片方の眼にも同様の視力回復治療を提供できるように、重要な一歩を踏み出した。 遺伝子治療研究の多くでは、ベクターと呼ばれる担体分子を利用して「機能する」遺伝子を患者の細胞に到達させる。ベクターは通常、正常なヒトDNAを運べるように遺伝子操作されたウイルスのバックボーンである。最近の臨床試験で使用されたアデノウイルス関連ウイルス ベクターは、LCA患者の片眼の視力を回復させることに成功したが、初回注入後のウイルスに対する厄介な免疫応答の可能性を考慮すると、もう片方の眼を同じ方法で治療することが安全かどうかは不明であった。今回の研究でDefne Amadoらは、眼のサイズや構造がヒトに近い動物であるイヌとサルにおいて、遺伝子含有アデノウイルスベクターをもう片方の眼に再投与したところ、いずれも安全かつ有効であったことを示している。さらに、この治療法は、遺伝子治療試験で患者の除外基準ともなっている、ウイルスベクターに対する免疫を既に持っている場合でも安全である。これらの結果から、治療に適格な患者の範囲が広がった。つまり、既に免疫を持つ患者が片眼の治療を受けられるようになり、既に片眼に遺伝子治療を受けた患者はもう片方の眼の視力も回復するチャンスが持てるようになる可能性がある。

"Safety and Efficacy of Subretinal Readministration of a Viral Vector in Large Animals to Treat Congenital Blindness," by D. Amado; J.L. Bennicelli; Z. Wei; R.L. Grant; J.A. Golden; S.E. Orlin; A.M. Maguire; J. Bennett; E. Bote at University of Pennsylvania in Philadelphia, PA; F. Mingozzi; D. Hui; Y. Chen; K.A. High; A.M. Maguire; J. Bennett; J.A. Golden at Children's Hospital of Philadelphia in Philadelphia, PA; Y. Chen; K.A. Higha t Howard Hughes Medical Institute in Philadelphia, PA; K. Narfstrom at University of Missouri in Columbia, MO; N.A. Syed at University of Iowa in Iowa City, IA.



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2011年01月09日

科学誌サイエンス 2010年 2月 19日


クジラ類出現前後のろ過摂食動物の進化
The Evolution of Filter Feeding, Before and After Whales


クジラは現存する地球最大の生物である。この巨大な哺乳類が、数千万年前に地球最小の一部の海洋生物の多様性にどう関わっていたかに注目した研究、そしてクジラの出現前に大型の魚が1億年以上もの間、生態系におけるニッチ(生態的地位)をどう占めていたかを詳述した 2つの研究が発表された。Matt Friedmanらは、現生のヒゲクジラやさまざまなサメ、エイが食物連鎖で各自の地位を確立する前に、海に生息し、ろ過摂食を行っていた巨大な魚類に関する複数の新たな発見について述べている。こういった先史時代の硬骨魚はわずかな期間しか存在しなかったと考えられてきた。しかし今回、未調査もしくは誤認されたまま博物館で保管されている長さ数メートルの化石群の新たな調査により、これらの硬骨魚は中生代に1億年以上も実際に生存していたことが判明した。Friedmanらは過去の研究結果の解釈を改めるとともに新たに化石群を分析した結果、開口部から海水を飲み込んで食物と水にふるい分けし、鰓裂から水を排出する巨大な懸濁物食者が1億7000万年〜6500万年前に生存していたことを発見した。その懸濁物食者らはその間に類を見ない効率的なろ過摂食の方法を生み出し、それは現存する最大の海生脊椎動物にも受け継がれている。もう一つの研究報告ではFelix MarxとMark Uhenが、それらの巨大なろ過摂食動物が占めていたニッチが空き、そこにろ過摂食を行うクジラ類が入る際、クジラ類の多様性は主要食物である一般的な植物性プランクトン、珪藻の同時進化と海洋温度の変化によって抑制を受けたと述べている。MarxとUhenは酸素安定同位体の記録を用いて、 3000〜4000万年前に生物学的事象および気候事象によりクジラ、イルカ、ネズミイルカの進化が抑制を受けたという仮説を実証している。 Perspective記事では、Lionel Cavinがこれらの研究報告をさらに詳しく述べるとともに、ろ過摂食を行うクジラ類の進化に関するこれらの新しい知識によって現在の博物学や巨大な海洋摂食動物の進化に関する見解がどう変化するかを説明している。

"100-Million-Year Dynasty of Giant Planktivorous Bony Fishes in the Mesozoic Seas," by M. Friedman at University of Oxford in Oxford, UK; K. Shimada at DePaul University in Chicago, IL; K. Shimada; M.J. Everhart at Fort Hays State University in Hays, KS; L.D. Martin at University of Kansas in Lawrence, KS; J. Liston at University of Glasgow in Glasgow, UK; A. Maltese; M. Triebold at Triebold Paleontology and Rocky Mountain Dinosaur Resource Center in Woodland Park, CO.


オタク族もジェット族も予測可能な行動をとる
Homebodies and Jetsetters Both Make Predictable Moves


報告によると、5万人から集めた携帯電話のデータから、その人が家に引きこもりがちなのか、それとも頻繁に長距離移動をしているのかという、移動のパターンがはっきり予測できるという。この研究結果は、人間やコンピュータ・ウイルスの広がり方から都市計画に至るまで、あらゆる研究に影響を及ぼす可能性がある。人間の移動および行動を分析するさいに使用される既存のモデルの多くは、我々はランダムな行動をとるものと仮定している。例えば、ウイルスの動態だけでなく、人間の待ち行列や群衆行動を研究するさいにも利用されるレヴィウォークというモデルでは、次の行き先をランダムに選ぶと仮定している(これは酔歩問題ともいう)。同様に、電気通信技師が1回線で処理可能な最大通話量を算出するときに利用するアーラン・モデルでは、通話パターンは完全にランダムだと仮定している。これではまるで我々がコインを指ではじいて電話するかしないかを決めているかのようだ。 Chaoming Songらは現在、料金請求のために集められた携帯電話使用者(匿名)のデータ3ヵ月分を研究している。その記録から、通話やメールごとにどこの中継塔を利用したかがわかる。予想どおり、たいていの使用者は数ヵ所の限られた範囲内で過ごしていたが、数百キロの移動を繰り返す人も少数ながらいた。こうした分布を見ると、あまり移動しない人は予測しやすく、移動量の多い一部の人々は予測しにくいと普通は考えるだろう。しかし、さらに詳しく調べたところ、実際には年齢・言語群・人口密度などの違いには関係なく、両グループの人々の移動が93%の割合で予測可能だとわかった。著者によると、この結果に基づいてデータマイニングのアルゴリズムを使えば、人間の移動パターンを実際に予測できるようになるという。さらにこの研究結果は、「我々は自発的で変化に富んだ行動をしたいと熱望しているにもかかわらず、実際には毎日非常に規則正しい行動をとっている」ことを示している、と著者は記している。

"Limits of Predictability in Human Mobility," by C. Song; Z. Qu; N. Blumm; A.-L. Barabasi at Northeastern University in Boston, MA; C. Song; Z. Qu; N. Blumm; A.-L. Barabasi at Harvard Medical School in Boston, MA; C. Song; Z. Qu; N. Blumm; A.-L. Barabasi at Dana Farber Cancer Institute in Boston, MA; Z. Qu at University of Electric Science and Technology of China in Chengdu, China.


生命の触媒?
The Catalyst of Life?


新たな研究から、原始地球においてケイ酸イオンがどのようにして複雑な糖の合成を促進していた可能性があるかが示された。研究者らは、この発見により生命が誕生する可能性のある環境範囲が広がったと言う。Joseph Lambertらは室温で単純な糖の反応試験を実施し、ケイ酸イオンが、基礎となる反応物(basic reactant)から生成された複雑な糖の合成を安定させるうえで重要な役割を果たしていることを明らかにした。ケイ酸ナトリウム存在下では単純な二炭糖や三炭糖分子が複雑な四炭糖や六炭糖複合体と同時に合成されることが観察され、古典的なホルモース反応(ホルムアルデヒドから複雑な糖が合成される)がこの地球上の生命体に必要な構成要素を生成していたことが証明された。理論上、単純なホルムアルデヒド分子は、リボースのような複雑な糖を合成して最終的にはRNAとなる。しかし、数十億年前の地球でこのような反応が実際どのようにして進んでいたかについては議論の的であった。ケイ酸イオンは地球表面の初期の水中に比較的多く含まれていたことから、今回の発見はホルモース様反応が複雑な糖の合成を可能にし、地球上の生命体を誕生させた可能性があることを示唆している。

"The Silicate-Mediated Formose Reaction: Bottom-Up Synthesis of Sugar Silicates," by J.B. Lambert; S.A. Gurusamy-Thangavelu; K. Ma at Northwestern University in Evanston, IL.


選択的に細菌を殺す抗菌薬
A Selective Bacterial Assassin


ある種の抗菌薬は、シュードモナス菌の必須タンパク質を狙って破壊する。この菌は、重篤な健康上の問題を引き起こす日和見性薬剤耐性病原菌である。これら抗菌薬が将来臨床に応用できる重要な治療薬になるかもしれない、と研究者はいう。今回、Nityakalyani Srinivasらは、抗菌ペプチドであるプロテグリンIのスクリーニングを複数回行って、抗シュードモナス菌活性の有無を調べた。その結果、他のグラム陰性菌やグラム陽性菌は無視してシュードモナス菌にのみ特異的に作用する化合物を発見した。さらに、このプロテグリン・ペプチドが持つ天然の作用を模倣した一連の抗菌薬を合成することに成功したうえ、マウスにおいてシュードモナス菌感染症の治療に有効であることも確認した。これらの抗菌薬は、細胞外膜の形成に不可欠なLptDというタンパク質を破壊することで病原菌を殺傷できるだけでなく、多剤耐性菌が関与する様々なグラム陰性感染症の治療でも今後非常に有用になるであろう、と著者らは述べている。

"Peptidomimetic Antibiotics Target Outer-Membrane Biogenesis in Pseudomonas aeruginosa," by N. Srinivas; P. Jetter; B.J. Ueberbacher; M. Werneburg; K. Zerbe; J. Steinmann; B. Van der Meijden; U. Ziegler; A. Käch; L. Eberl; K. Riedel; J.A. Robinson at University of Zurich in Zurich, Switzerland; F. Bernardini; A. Lederer; R.L.A. L. A. Dias; P.E. Misson; H. Henze; J. Zumbrunn; F.O. Gombert; D. Obrecht; S.J. DeMarco at Polyphor AG in Allschwil, Switzerland; P. Hunziker; S. Schauer at Functional Genomics Center Zurich in Zurich, Switzerland.



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