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2010年12月19日

科学誌サイエンス 2010年 1月 22日


世界中の病院でMRSAを追跡
Scientists Track MRSA Around the World’s Hospitals

新しいゲノム配列解析技術を次々に用いて、過去40年間で世界中に広まったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)という薬剤耐性菌の追跡が行われてきた。このゲノム解析に基づく研究により、MRSAが国から国へ、病院から病院へ、そして病棟など1ヵ所では人から人へと伝播する経路が明らかになるだろう。さらにこの研究は、MRSA感染者数を減少させるには、感染防止対策をどの場所で緩和または強化すればよいかを判断するのにも役立つと考えられる。また、監視体制を強化して新しい菌株の出現を検知し、その拡大を防止するのにも役立つだろう。 MRSA感染は病院や老人ホームなど医療関連施設で発生することが多く、死に至ることもある。患者から採取した多数のMRSA菌株を比較する場合、現行の方法では、菌株間の進化関係を明確にするだけの情報は得られない。Simon Harrisらの国際チームは、多様なMRSA菌株に対して、そのゲノム内でDNA配列の「文字(塩基)」が数個あるいは1個だけ異なる場所を正確に割り出す新方法を用いた。この方法で、「ST239」系統(抗生物質耐性をもち、世界の院内感染型MRSAの大部分を占拠)に属するMRSAの63検体を解析した。解析対象の約3分の2は、1982〜2003年に世界中から収集された検体で、世界に広まるST239の一端を垣間見ることができる。残り3分の1 は、ここ7ヵ月のあいだにタイの1病院の患者から採取された検体だ。各検体の遺伝的変異量を分析することで、世界中に広まり各地で遺伝的に似通った菌株の集団を生み出したあと、さらに進化していったST239クローンの足取りを示す「系図」を作成した。その結果、たとえば、ロンドンの病院の集中治療室で発生したMRSA感染は、東南アジアから持ち込まれた可能性が高い細菌株と関連していたことがわかった。このような感染が発生するには、ある人がこの菌株をある場所から別の場所に運び、そこで他の人々に伝播し、そのうちの数人が感染する過程が欠かせない。さらにこの研究によって、タイの病院の患者に感染した、ただ1つのMRSA菌株が、時が経つにつれて新突然変異を獲得していった仕組みも判明した。また、同一病棟でMRSA感染した2人の患者では、人から人へ同菌株が直接伝播したのか、それとも病院の別の場所からきた菌株なのか、を見分けられる可能性があることも明らかになった。これによって、感染防止対策が感染防止に不十分であった場所を正確に特定できるようになるだろう。

"Evolution of MRSA During Hospital Transmission and Intercontinental Spread," by S.R. Harris; M.T.G. Holden; M.A. Quail; J. Parkhill; S.D. Bentley at Wellcome Trust Sanger Institute in Cambridge, UK; E.J. Feil at University of Bath in Bath, UK; E.K. Nickerson; N. Chantratita; N. Day; S.J. Peacock at Mahidol University in Bangkok, Thailand; E.K. Nickerson; S.J. Peacock at University of Cambridge in Cambridge, UK; E.K. Nickerson; S.J. Peacock at Addenbrooke's Hospital in Cambridge, UK; S. Gardete; A. Tavares; H. de Lencastre at Universidade Nova de Lisboa in Oeiras, Portugal; S. Gardete; H. de Lencastre at Rockefeller University in New York, NY; N. Day at University of Oxford in Oxford, UK; J.A. Lindsay at St. George's University of London in London, UK; J.D. Edgeworth at King's College London in London, UK; J.D. Edgeworth at Guy's, King's and St. Thomas' Medical School in London, UK; J.D. Edgeworth at Guy's Hospital in London, UK; J.D. Edgeworth at Guy's and St. Thomas' National Health Service Foundation Trust in London, UK.


粘菌の効率的な形状を活用する
Harnessing the Efficiency of a Slime’s Design


原生生物である真正粘菌変形体からエンジニアは何を学べるであろうか。最新の実験によると、真菌に似たゼラチン質の粘菌Physarum polycephalum(モジホコリ)がよりロバストなコンピュータやモバイル通信ネットワークといった技術システムの向上の方法を示してくれるという。この研究結果は、日本と英国の研究者チームが、東京の鉄道網に酷似した形状でこの粘菌が散在する餌場に接触するように広がることを観察し、導き出したものである。Atsushi TeroらはPhysarum polycephalumとオートムギの薄片を東京とその周辺都市にほぼ一致する配置で表面が湿った環境に置き、Physarum polycephalumを中心から外側へと成長させた。その結果、Physarum polycephalumが自発的に形を作って広がり、効率、信頼性、労力や費用といったコストの点で東京の鉄道網という現実のインフラに匹敵するネットワークを構築することが観察された。Teroらは、高い適応能力を有するこの生物ネットワークが効率的に餌場に接触するのに必要な仕組みの核心を捉え、それらを数理モデルに組み込んだ。この粘菌変形体が無数の進化的淘汰を経てきたことを考えると、その食性に基づいたこの数理モデルは現実の世界で活用するための最も効率的な適応型ネットワークの設計の手本なり得る。このモデルはリモートセンサーアレイ、臨時のモバイルネットワーク、ワイヤレスメッシュネットワークなどの自己組織型ネットワークの効率向上とコスト削減の第一歩を教えてくれるとTeroらは述べている。関連するPerspective記事では Wolfgang Marwanが今回の研究結果を詳細に説明している。

"Rules for Biologically Inspired Adaptive Network Design," by A. Tero; S. Takagi; T. Saigusa; K. Ito; T. Nakagaki at Hokkaido University in Sapporo, Japan; A. Tero; R. Kobayashi; T. Nakagaki at Japan Science and Technology Agency in Tokyo, Japan; D.P. Bebber; M.D. Fricker at University of Oxford in Oxford, UK; K. Yumiki; R. Kobayashi at Hiroshima University in Higashi-Hiroshima, Japan.


頻度は低いが、とても強力なハリケーン
Fewer, but More Intense Hurricanes


21世紀における太平洋海盆ハリケーンの全数は、減少しているはずであるが、強度の分類が激しい4と5のストームの数は、地球温暖化の影響により、増加することが予想されると研究者らは述べている。Morris Benderらは、現在のハリケーンと気候予測モデルを改良し、どの強度のハリケーン活動が現在の状況下で生じうるかを正確に予報するモデルを作り出した。このモデルは、来世紀におけるもっとも強力なハリケーンの最大の集積が、西大西洋地域に集中していることを示しており、研究者らは、ヒスパニオラ島、バハマ島および米国の南東海岸が大きなリスクを背負うことになる可能性があると警告している。これまで、いくつかの研究により、地球温暖化は、次の100 年では、エネルギーがより小さく頻度の少ないハリケーンを引き起こすと示唆されてきた。しかし、これらのモデルでは、ストームの強度をカテゴリー3かそれ以上に再現することは不可能であった。

"Modeled Impact of Anthropogenic Warming on the Frequency of Intense Atlantic Hurricanes," by M.A. Bender; T.R. Knutson; J.J. Sirutis; G.A. Vecchi; S.T. Garner; I.M. Held at National Oceanic and Atmospheric Administration/Geophysical Fluid Dynamics Laboratory in Princeton, NJ; R.E. Tuleya at Old Dominion University in Norfolk, VA.


San Andreas断層上に徐々に形成される巨大地震
Major Earthquakes Build Slowly on the San Andreas Fault


壊滅的な地震により動揺が広がっているハイチのように、今週のScienceに掲載された研究は、大地震を予測するために研究者らが依然として見識を広める必要性があることを強く訴えている。新たな研究によると、カリフォルニア州San Andreas断層では、これまで考えられていたよりも小さい断層のずれが頻繁に発生してきたようである。この結論に至って、Olaf ZielkeとLisa Grant Ludwigらは、1857年のFort Tejon大地震の際に、Carrizoセグメントとして知られる断層に沿って発生した地滑りの平均(距離)がわずか5メートルほどであったことを示す新しい高解像レーダー画像を発表した。この距離はこれまで考えられていたものよりもかなり短い。この発見によりCarrizoセグメント沿いに発生する巨大地震が、地滑りの規模は小さくとも、これまで考えていたよりも高率に生じることが示唆された。別の報告では、Carrizoセグメントに沿っていくつかの小規模な地震が発生することで、頻度は低いがそれだけに終わらず、これまでになく大規模な地震が発生する可能性があることが示された。過去に巨大地震発生がみられた断層線間にある堆積物の分析法を組み合わせることにより、この堆積物が小規模な地滑りによってではなく、ほとんどが巨大地震によって移動していることがわかった。以上をまとめると、このようなデータから、継続的で軽微な地震と小規模の地滑りによりSan Andreas断層で最も単純な地帯であるCarrizoセグメントが形成されていることが明らかになった。

"Climate-Modulated Channel Incision and Rupture History of the San Andreas Fault in the Carrizo Plain," by L. Grant Ludwig; S.O. Akciz; G.R. Noriega at University of California, Irvine in Irvine, CA; O. Zielke; J.R. Arrowsmith at Arizona State University in Tempe, AZ.


Translational Medicine 1月20日号 - インフルエンザワクチンを活性化:すべてはアジュバント次第
Revving up Flu Vaccines: It’s All about the Adjuvant


新たな研究から、欧州版のパンデミックH1N1ワクチンに現在使用されている物質は、インフルエンザワクチンに対する免疫応答を根本的に変化させ、複数種のインフルエンザに対する抗体反応を誘導する身体能力を高める可能性があることが報告された。アジュバントとは、免疫応答を高めるためにワクチンに通常添加される物質であるが、それ自体に効力はない。そのことがまさに、アジュバントが科学者らを悩ませ続けている理由である。アジュバントは、免疫応答を高めることで、2009年秋の季節性インフルエンザワクチン不足にみられたように、供給不足に陥りがちなワクチンの使用量を抑えることを可能とする。今回の結果から、特定のアジュバントにより、大規模なワクチン接種が大きく改善され、関連するインフルエンザウイルスに対する交叉防御能(cross-protection)が得られる可能性が示唆される。 この研究でSurender Khuranaらは、臨床試験で得たヒト血清を用いて、トリインフルエンザワクチンに対する身体の免疫応答を、MF59アジュバントを添加した場合としない場合で詳細に比較した。アジュバントをワクチンに添加した場合、トリインフルエンザウイルスを不活化することが知られているいくつかの抗体を含め、より広範囲のインフルエンザ抗原を認識する抗体が産生された。特に、MF59はトリインフルエンザに対する抗体量を増加させる一方で、抗体の種類をも増加させ、複数種のインフルエンザに対して幅広い予防効果が得られることが予想される。現在、新規のワクチンアジュバントが多数開発中である。今回の結果は、ワクチンにおけるアジュバントの役割の特定を促し、ワクチン製造業者が、良好なインフルエンザ予防効果が得られる可能性が最も高いアジュバントを選択するうえで役立つと考えられる。

"Vaccines with MF59 Adjuvant Expand the Antibody Repertoire to Target Protective Sites of Pandemic Avian H5N1 Influenza Virus," by S. Khurana; W. Chearwae; J. Manischewitz; L.R. King; A. Honorkiewicz; H. Golding at Food and Drug Administration in Bethesda, MD; F. Castellino; G. Del Giudice; R. Rappouli at Novartis Vaccines and Diagnostics Research Center in Siena, Italy; M.T. Rock; K.M. Edwards at Vanderbilt University Medical Center in Nashville, TN.



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2010年12月18日

科学誌サイエンス 2010年 1月 15日


ショウジョウバエの時代は終わり寄生バチの時代へ
Move Over Drosophila, Here Comes Nasonia

大規模な研究コンソーシアムにより、寄生バチNasonia属の3種のゲノム塩基配列が明らかにされた。 Nasonia属は、膜翅目版「実験用ラット」とよく言われるハチ、ミツバチ、アリなどである。これら小さなハチやその仲間は、農作物に害を与えたり病気を媒介したりする害虫など多くの昆虫を刺して卵を産みつける。そのため、Nasonia属のゲノム塩基配列が解明されれば、これら害虫の駆除に新たな道が開けるだろうと考えられている。Nasonia属は「単数二倍体(haplodiploid)」(メスは受精卵から生まれるため2組の染色体を持っているが、オスは未受精卵から単為発生するので1組の染色体しか持っていない)であるため、遺伝子研究でも重要なモデル生物になっている。オスは、単一遺伝子しか持っていないので、様々な形質、とりわけ複数の遺伝子が相互作用して作る複雑な形質に関して、その背景にある遺伝子を特定しやすい。 Jack Werrenらは、3種のゲノム塩基配列を報告した研究の中で、これら塩基配列から明らかになった重要な発見について若干述べている。例えば、宿主に様々な影響を与えるハチ類の毒に関与する遺伝子を特定することができた。また、ハチ類が細菌やポックス・ウイルスから新しい遺伝子を取り込んでいることも明らかにした。さらに3種それぞれの中で急速に進化し新種の出現に関わっていると思われる核遺伝子やミトコンドリア遺伝子も特定することができた。著者らは、 Nasonia属が「DNAメチル化ツールキット」(生物のDNAを化学修飾するタンパク質をコードする遺伝子セット)を持っていることも述べている。このようなDNA修飾は、発生過程をはじめさまざまな生物学的プロセスで重要であることが判明しつつあるが、遺伝子研究で長年使用されてきた昆虫モデルのショウジョウバエ属はこのツールキットを持っていない。このため、メチル化の研究にもNasonia属が役に立つことは明らかであろう。

"Functional and Evolutionary Insights from the Genomes of Three Parasitoid Nasonia Species," by J.H. Werren at University of Rochester in Rochester, NY; The Nasonia Working Group. Please see the manuscript for the complete list of authors and their affiliations.


アリゲーター属の呼吸
Alligator Breath


研究者らの報告によると、アリゲーター属の肺は鳥類の肺に似ており、空気はいわゆるクルドサックの形状(空気の通路の突き当たりがサークル状になっており、空気がUターンする)で出入りするのではなく、一方向に流れる。こういった肺構造は一般的に、飛ぶことに大量の酸素を必要とする鳥類独自の特徴だと考えられてきたが、新たな研究により、空気が単一方向に流れる構造は大半が、鳥類とアリゲーター属の共通祖先つまり初期の爬虫類である三畳紀の主竜類(Archosaurs)に発生したという結果が示された。Collen FarmerとKent Sandersは生きたアメリカンアリゲーターの肺と人工呼吸器につないだ切除肺の両者を用いて、空気と水の流れ方を調査した。その結果、アリゲーターの肺での空気の流れは一方向で、鳥類に極似していることが分かった。しかし、鳥類の肺のように空気嚢がないにもかかわらず、アリゲーターがどのようにこの形式の呼吸を行っているのかはいまだ判明していない。FarmerとSandersは、このような空気の流れ方は三畳紀前期の主竜類に遡り、恐竜さらにはワニ類・鳥類など主竜類の種々の子孫に受け継がれた可能性があると述べている。加えて、この肺構造によって特定の初期の主竜類は激しい運動が可能になり、優位性を獲得したと考え得るとも推測している。

"Unidirectional Airflow in the Lungs of Alligators," by C.G. Farmer at University of Utah in Salt Lake City, UT; K. Sanders at University of Utah Health Sciences Center in Salt Lake City, UT.


北極の海岸に生息する鳥類はなぜ遠くへ行ったか
Why Arctic Shorebirds Go the Distance


北極の海岸に生息する鳥類は、過酷で人里はなれた北極の繁殖地へ移住するかのように毎年、激しく遠くへ移動するが、鳥はそれなりの報酬をえていると科学者は報告している。それらの鳥類の卵は、キツネやその他の捕食者によって食べられることが少ない。北極に巣を作る鳥類は、南アメリカの南端や南アフリカそしてオセアニアの越冬性地域から、北極の繁殖地まで飛ぶというとても印象的な移住戦略を持つ。鳥類が実際に旅を達成する方法のように、この長旅の身体的な代償は、よく研究されている。しかしながら、なぜ鳥類がそこまで遠くに移動できるのかは、関連の Perspective記事に示されているように、明確にはなっていない。動物の捕食が、高緯度で減少している可能性があるという仮説を検証するために、 Laura McKinnonらは、卵とともに、1500以上の人工的な巣を、北極の南北3000km以上にわたり伸びている7つの海岸に生息する鳥類の繁殖地の巣の近くに設置した。McKinnonらは、少なくとも2ヵ年の夏の間、巣を監視した結果、北方の巣は捕食されそうにないことを発見した。関連する Perspective記事で、Olivier Gilg and Nigel G. Yoccozによって、どのように捕食が北極の生物多様性を形作ったかを詳述している。

"Lower Predation Risk for Migratory Birds at High Latitudes," by L. McKinnon; J. B?ty at Universite du Quebec a Rimouski in Rimouski, QC, Canada; P.A. Smith; R.I.G. Morrison at Environment Canada, National Wildlife Research Centre in Ottawa, ON, Canada; E. Nol at Trent University in Peterborough, ON, Canada; J.L. Martin at CNRS in Montpellier, France; F.I. Doyle at Wildlife Dynamics Consulting in Telkwa, BC, Canada; K.F. Abraham at Ontario Ministry of Natural Resources in Peterborough, ON, Canada; H.G. Gilchrist at Carleton University in Ottawa, ON, Canada.


抗マラリア薬の利用を高める植物の遺伝子
Plant Genes Poised to Improve Access to Anti-Malarial Drugs


マラリア治療に用いられる天然物を産生するArtemisia annua(クソニンジン)という植物の遺伝暗号が解読された。この遺伝子マップにより、今後この薬品の大量備蓄が可能になると研究者らは述べている。 Ian Grahamらは、A. annuaの全mRNA分子(トランスクリプトーム)の配列解析を実施し、A. annuaの育種に関与する特定の遺伝子とマーカーを同定した。その後研究室で数代にわたるA. annuaを栽培して自分たちの研究成果を裏付け、中国で千年以上にわたり薬用として栽培されてきたこの植物が、より頑強で世界中で栽培可能な品種に改良できることを確認した。Ian Grahamらは、A. annuaの収穫量を上げ生産コストを下げるのに活用できるトランスクリプトーム領域を記録し、この植物由来の抗マラリア薬であるアルテミシニンの世界的な安定供給を保証している。アルテミシニンは、致死率の高いマラリア寄生虫Plasmodium falciparumに対し効果があるとして広く用いられている治療薬の主成分であり、近い将来世界中でそのようなアルテミシニンを基本とした治療の需要が高まることが予想されている。関連するPerspectiveでは、Wilbur MilhousとPeter WeinaがこのA. annuaの遺伝子マップとその意義について詳述している。

"The Genetic Map of Artemisia annua L. Identifies Loci Affecting Yield of the Antimalarial Drug Artemisinin," by I.A. Graham; K. Besser; S. Blumer; C.A. Branigan; T. Czechowski; L. Elias; I. Guterman; D. Harvey; A.M. Khan; T.R. Larson; Y. Li; T. Pawson; T. Penfield; A.M. Rae; D.A. Rathbone; S. Reid; J. Ross; M.F. Smallwood; V. Segura; T. Townsend; D. Vyas; T. Winzer; D. Bowles at University of York in York, UK; P.G. Isaac at IDna Genetics, Ltd. in Norwich, UK.


Translational Medicine 1月13日号:仮眠なしには取り戻せない-慢性睡眠不足は解消できない
Lose if You Don’t Snooze: Chronic Sleep Loss Can’t be Recovered


新たな研究により、慢性的な睡眠不足に陥ると、二度と最高の状態で活動できなくなる可能性が示されている。平均睡眠時間が非常に少なく、それを時折長時間の睡眠をとることで解消しようとしている人は、慢性的な睡眠の負債を抱えていることに気付かない場合がある。しかし、このような人々が、たとえば夜勤などで深夜まで起きていると、予想よりはるかに急速に作業能率が低下し、ミスや事故を起こしやすい状態になる。これらの知見は、長距離トラック運転手や医学生などの不規則な交代制勤務の仕事をしている人の覚醒状態の促進や、睡眠障害患者の治療を目的とした新たな技術の開発に役立つと考えられる。睡眠の正確な作用は明らかにされていないが、これまでの研究から、身体から必要な休息が奪われると、疾患、ストレス、学習および記憶障害、交通事故、体重増加が起こりやすくなることが判明している。 本研究でDaniel Cohenらは、急性睡眠不足、慢性睡眠不足、および概日性のタイミングが、持続的な注意力を要する作業の能率に及ぼす影響について検討するためのプロトコールをデザインした。被験者は、3週間にわたり、24時間あたり睡眠5.6時間相当の睡眠覚醒周期を繰り返す生活を続けた。同研究者らは、大部分の被験者では10時間の良質な長時間睡眠を一晩とることで急性睡眠不足が解消されたのに対し、慢性睡眠不足の被験者では、覚醒時間が増すごとに作業能率がより急速に低下してミスや事故を起こしやすい状態になった。この傾向は特に深夜で顕著であった。この結果から、睡眠不足は、少なくとも2つの異なる生物学的調節機序によって脳に影響を及ぼしている可能性が示唆される。この睡眠による調節過程の1つは覚醒時間、もう1つは数日または数週間継続する睡眠時間が非常に少ない状態に基づいて生じるものと考えられる。

"Uncovering Residual Effects of Chronic Sleep Loss on Human Performance," byD.A. Cohen; W. Wang; C.A. Czeisler; E.B. Klerman at Brigham and Women's Hospital in Boston, MA; D.A. Cohen at Beth Israel Deaconess Medical Center in Boston, MA; J.K. Wyatt at Rush University Medical Center in Chicago, IL; R.E. Kronauer at Harvard University in Cambridge, MA; D.-J. Dijk at University of Surrey in Surrey, UK.



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2010年12月04日

科学誌サイエンス 2010年 1月 8日


サンゴ礁は多様性のゆりかご
Coral Reefs Are Cradles of Diversity

サンゴ礁はその驚くべき生物多様性が高く評価されているが、新種が実際にサンゴ礁から発生しているのか、あるいは生態学者がしばしば仮定してきたように、他の場所からサンゴ礁に移動してきているだけなのだろうか?ある研究では、サンゴ礁保護の重要性が強調され、科学者らはサンゴ礁が新種の発生地として長年重要であったことを確認した。Wolfgang Kiesslingらはドイツおよび米国で、カンブリア紀より海底に生息した化石生物の膨大なデータベースを調査した。サンゴ礁で最初に発生した新属と浅海域で発生した新属の数を比較したところ、サンゴ礁は非常な多様性を擁しているだけでなく、海底に生息する新たな種が発生する重要な場所でもあることが認められた。

"Reefs as Cradles of Evolution and Sources of Biodiversity in the Phanerozoic," by W. Kiessling; C. Simpson at Humboldt University in Berlin, Germany; M. Foote at University of Chicago in Chicago, IL.


ヒトおよび魚類の第三者による罰行動
Humans and Fish - Third-Party Punishers


掃除魚を対象に行った最近の研究から、個人的に被害を被っているわけでもない一見無関係の傍観者達が攻撃者を罰するという「第三者による罰行動」形成の仕組みが明らかになった。Nichola Raihaniらは、掃除魚が掃除を行っている体の大きな「クライアント」魚に対して、掃除魚のメスが相手を怒らせるような行動を取った場合、オスそのものはその行為によって直接被害を被っていないにも関わらずメスを罰するという行動を観察した。この発見は、より複雑なヒトでの行動の起源および進化を明らかにするかもしれないと研究者らは述べている。Breviumでは、掃除魚(Labroides dimidiatus)が自然界において、クライアント魚の小さな寄生虫を取って食べることでどのように奉仕しているのかを詳細に述べている。この掃除魚は、実際には寄生虫よりもクライアントの粘膜をかじることを好み、これは攻撃的行動とみなされる。Raihaniらはたくさんの魚フレーク(掃除魚の餌)とエビ(掃除魚はフレークよりこちらを好む)が付いたプレートを掃除魚2匹が入った水槽の中に入れ、魚がエビを食べると直ちにプレートを引き上げるという室内実験を行った。研究者らは、メスがエビを食べてプレートが引き上げられてしまった場合、必ずオスがメスを罰する行動をとり、罰せられたメスが再びエビを食べる回数が減ったことに直ちに気づいた。この習性のおかげでオスはプレートからよりたくさんの魚フレークを食べることができ、自然界で(たとえクライアント魚が直接の被害者であっても)クライアント魚の粘膜を食べたメスを罰することでオスは利益を得ることができる、ということが示唆された。

"Punishers Benefit from Third-Party Punishment in Fish," by N.J. Raihani at Zoological Society of London in London, UK; A.S. Grutter at Universite de Neuchatel in Neuchatel, Switzerland; R. Bshary at University of Queensland in Brisbane, QLD, Australia.


コカインが脳遺伝子に影響する仕組み
How Cocaine Affects Brain Genes

マウスを用いて薬物中毒の生物学的基盤を調べる研究において、脳の「報酬」回路の中心的役割を担う部位である側坐核の中の遺伝子のオンオフ切り替え機能に対し、コカインがどのように影響しているのかが明らかにされた。コカイン中毒は、この回路内の遺伝子発現や新たな状況に対する適応能力に対して長期的な変化を引き起こすことが知られており、こうした変化が基盤となってコカイン中毒による行動的影響の一端が現れると考えられている。Ian Mazeらは、マウス脳ニューロンの染色体で分子相互作用が起こり最終的に様々な遺伝子の発現に影響を与えることに注目し、相互作用のいくつかを解析した。長期的にコカイン曝露を受けると、側坐核の染色体の一部に対する特定の「ヒストンリジンメチル化」という生物学的修飾が減少することがわかった。このヒストンリジンメチル化の減少は、特定のニューロンの可塑性を増大させて、ニューロン同士を異常に結合しやすくさせた。さらに、この結果、マウスのコカイン嗜好を一層増大させた。著者らは、これらの過程を通して調節されている遺伝子をさらに解明すれば、中毒障害に対する一層効果的な治療法の開発に役立つであろう、と述べている。

"Essential Role of the Histone Methyltransferase G9a in Cocaine-Induced Plasticity," by I. Maze; H.E. Covington III; D.M. Dietz; Q. LaPlant; S.J. Russo; E. Mouzon; Y. Ren; Y.L. Hurd; E.J. Nestler at Mount Sinai School of Medicine in New York, NY; Q. LaPlant; W. Renthal; M. Mechanic at University of Texas Southwestern Medical Center in Dallas, TX; R.L. Neve at Massachusetts Institute of Technology in Cambridge, MA; S.J. Haggarty at Massachusetts General Hospital in Boston, MA; S.J. Haggarty at Broad Institute of Harvard and Massachusetts Institute of Technology in Cambridge, MA; S.C. Sampath; P. Greengard; A. Tarakhovsky; A. Schaefer at Rockefeller University in New York, NY.


ケプラー探査機の初期活動
First Days of the Kepler Mission


海王星や木星、太陽系のその他の巨大ガス惑星に匹敵する大きさではあるが、密度がかなり低い惑星が太陽系外に存在していることが、ケプラー探査機により初めて発見された一連の惑星から示された。ケプラー探査機の目的は、他の星の生命居住可能領域(habitable zone)に、地球規模の惑星を探すことにある。これまで太陽系外に400以上もの惑星が検知されてきたが、そのほとんどが木星と同程度の質量の惑星であった。William Boruckiらは、新たに発見された5つの太陽系外惑星など、ケプラー探査機の最初の6週間の活動から得られた知見を報告している。今回発見された惑星のうち1つは、放射レベルがかなり高いものの多くの点で海王星に類似している。2つめの惑星は、これまで発見された惑星のなかで最も密度の低いものの1つであり、残る惑星3つとともに、巨大ガス惑星に予想されていた密度よりもかなり低密度の惑星が存在することを示すものであった。ケプラー探査機の初期活動から得られたデータにより、ケプラー計画が目的達成に向けて順調に進んでいることがわかると著者らは報告している。

"Kepler Planet Detection Mission: Introduction and First Results," by W.J. Borucki at NASA Ames Research Center in Moffett Field, CA, and others. Please see the manuscript for a complete list of authors and affiliations.


Translational Medicine 1月6日号:アルツハイマー病に対する新たな併用薬物療法
New Combination Drug Therapy for Alzheimer’s


マウスでの新たな研究により、阻害剤の「カクテル」がアルツハイマー病の治療に有効である可能性が報告された。この併用療法は、2つの特異的な酵素を同時に標的としており、これらの酵素のいずれかのみを標的とする薬剤による現在の治療よりも、安全性と有効性が高いと考えられる。アルツハイマー病は進行性で致死的な脳疾患であり、世界で推定3,000万人が罹患している。この疾患は脳細胞を破壊し、記憶喪失や重大な精神および行動障害を引き起こす。治療法はなく、アルツハイマー病は現在米国で第7位の死因である。アルツハイマー病の原因を説明する有力な理論とされているのは、有毒なタンパク質であるアミロイド?の蓄積であり、アミロイド斑と名付けられている。 これまでの研究から、マウスの脳内では、βセクレターゼとγセクレターゼという2つの酵素のいずれかを阻害すると、アミロイド斑の生成が予防ないし抑制されることが認められている。しかし、これらの酵素を過度に阻害すると、危険な副作用が生じることも判明している。例えば、マウスでβセクレターゼを過度に阻害すると、神経機能が損なわれ、統合失調症様症状が生じる。同様に、γセクレターゼを過度に阻害すると、発育不全、皮膚腫瘍、寿命短縮といった種々の異常をきたす。この研究で研究者らは、高齢のアルツハイマー様マウスにおいて、βセクレターゼおよびγセクレターゼ酵素の両者を適度に阻害する阻害剤の「カクテル」を開発した。この技法では各剤が連携し、有害な副作用を生じることなく、マウス脳内のアミロイド斑生成が抑制されるようであった。この併用療法の有効性を、アルツハイマー病患者で検証する臨床試験がまもなく予定されている。

"Modeling an Anti-Amyloid Combination Therapy for Alzheimer's Disease," by V.W. Chow; A.V. Savonenko; T. Melnikova; H. Kim; D.L. Price; T. Li; P.C. Wong at Johns Hopkins University School of Medicine in Baltimore, MD.



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