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2015年06月04日

日経サイエンス 2009年7月6日






ヒトとサルを分けた「0.5%」の中身

掲載日:2009年7月6日

600万年前、アフリカの森にすんでいた霊長類の1つのグループが木から下りた。今、そのグループは私たち人類となり、森に残ったグループはチンパンジーとなった。チンパンジーは昔と変わらず木陰などで夜露をしのいでいるが、人類は都市を建設、自身を構成する生命の設計図、ヒトゲノム(全遺伝情報)を解読するに至り、さらには、親類とも言えるチンパンジーのゲノムをも解読した。

共通の祖先から出発して600万年、DNAの形で保存されている設計図にどのような“変更”が加えられて人類となったのか? 人類は自身のゲノムとチンパンジーのゲノムを突き合わせてみた。驚いたことに、約30億塩基対からなる両ゲノムのほとんどの部分はまったく同じだった。違っていたのは1500万塩基対の配列だけ、30億塩基対に占める割合はたったの0.5%だ。

ヒトとチンパンジーは設計図はほとんど同じなのに、身長も見かけも知能もかなり違う。逆に言えば0.5%という設計変更部分は、生物のあり方そのものに影響を及ぼすほど重要なものであることがわかる。著者によると、最重要と考えられるのは、脳のしわの形成に関与する設計変更だという。

ゲノムは遺伝子(生物の構成部品であるタンパク質の設計図)と、遺伝子以外の領域に分けられる。後者の領域には、必要な時期に遺伝子を目覚めさせてタンパク質を作らせたり、タンパク質が不要になったら遺伝子を眠らせたりするための情報などが書き込まれている。そして脳のしわの形成に関与する設計変更は後者の領域にあった。人類は脳のしわを作る遺伝子の“働き方”が、チンパンジーとはかなり違っているらしい。

このほか、脳の大きさを制御する領域などにも重要な設計変更が加えられたこともわかってきた。
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日経サイエンス 2009年7月2日






ナノマシンが細菌のように動いた

掲載日:2009年7月2日

虫眼鏡でも見えないほど小さな機械、ナノマシンの開発が進み、フラーレン(サッカーボール状炭素分子)をタイヤとする分子サイズの車さえできるようになった。しかし、その車には今のところエンジンが積まれていない。分子サイズの車の場合、エンジンはそれより小さくしなければならないが、物質を構成するのは原子や分子だから、現在の自動車エンジンのようなものを分子サイズで作ることは原理的に不可能。ナノマシンのエンジンにはまったく新たな発想が求められる。

動かすだけなら簡単だ。ナノマシンを液体中に入れれば、液体分子と衝突を繰り返すことで、でたらめな動きをする。ブラウン運動だ。実はブラウン運動をうまく利用して微生物は動いたりしている。ナノマシンにこの“生物の知恵”を生かそうという試みがある。

もう1つ、これも生物をまねたアイデアがある。化学反応で生み出すエネルギーの活用だ。カプセル状ナノマシンの表面で電気化学反応を起こさせることで、周囲に一定方向の液体の流れを生み出す。するとナノマシンはその液流とは反対の方向に動くようになる。著者らが試作したそのナノマシンの動きを顕微鏡で観察すると、細菌が遊泳する姿と驚くほど似ていた。

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2011年04月23日

日経サイエンス 2009年6月22日、25日、29日  


【 鮮やかな色を獲得するまでの道 】

掲載日:2009年6月22日

日経サイエンス7月号 暗黒エネルギー

私たちは、世界がさまざまな色に満ちあふれていることを当然のことだと思っている。しかし、哺乳類の中でも、こうした色覚を持っているのはヒトとサルの一部に限られる。私たちのよき伴侶であるイヌやネコが見ている世界は、色鮮やかさがかなり欠けるようだ。

それは外界からの光を受ける網膜の構造の違いによっている。私たちの網膜には、赤緑青の光にそれぞれ感受性がある3種類の物質(視物質)が敷き詰められていて、それらからの信号を総合して色合いを認識する。カラーディスプレーは赤緑青の光の強さを変えることで色合いの違いを生み出すが、その光を受ける網膜では、カラーディスプレーと逆のプロセスが行われていることになる。

一方、イヌやネコ、ネズミなどの網膜には2種類の視物質しかなく、青色はきちんと認識できるが、赤と緑の違いを明確に区別することは難しい。

ではなぜ、私たちは3種類の視物質を持つようになったのだろう? サルの関連遺伝子を調べていくと、旧大陸(ユーラシア・アフリカ)のサルと新大陸のサルでは、まったく異なる進化の道筋をたどった末に、結局、同じような3種類の視物質を獲得したことがわかってきた。

* 日経サイエンス誌2009年7月号「サルが見た色の世界 色覚の進化をたどる」 より


【 ここまで進んだ臓器づくり 】

掲載日:2009年6月25日

日経サイエンス8月号 実用間近に迫ったiPS細胞
今や医学や生物学に詳しくない普通の人でも知っている「iPS細胞」。自分の皮膚を少しとり、バイオ技術を用いてiPS細胞を作ることができれば、それを元手に、自分の体内にあるのとそっくりの心臓や肝臓、血管などを再生することも夢ではなくなった。

重い病気や事故にあっても、他人の臓器などに頼ることなく、再生した自身の臓器のスペアを移植すればすむ。金属やポリマー製の臓器や他人の臓器を移植する場合と違って、命にかかわる拒絶反応が起きないのが大きな特徴だ。iPS細胞のパイオニアである京都大学の山中伸弥(やまなか・しんや)教授はノーベル賞有力候補と目される。

ただ、iPS細胞で作ったスペア臓器が実現するのはもう少し先。それより早く、別種のヒトの細胞をもとにしたスペアが医療現場に登場するかもしれない。今回の特集では米国で先行するさまざまな臓器作りの事例と日本国内の先進的な取り組みについて紹介する。

一方、iPS細胞については創薬現場での実用化が先行するとみられている。iPS細胞で各種の臓器の細片を作り、それを新薬候補物質の効果や毒性を調べるチップとして使おうという試みだ。特集の3本目の記事は、山中教授への取材などをもとに、これまであまり一般には知られることが少なかったiPS細胞の創薬への応用に焦点をあてる。

臨床応用が始まっているヒトの細胞をもとに作った臓器や組織の代表例は皮膚や軟骨、補修パッチ(血管などの損傷を補修する素材)などだ。これらは比較的、構造が単純で、いずれも組織内に血管が通っていない(血が通っていない)。培養液中で育てた皮膚や軟骨は、患者への移植後、周囲の毛細血管から酸素や栄養を受けとり、患者の組織と一体化していく。

こうした段階を経て、現在、米国で臨床応用が模索されているのは、より複雑なもの、つまり内部に血管が組み込まれた臓器(血の通った臓器)で、その代表格が肝臓だ。肝臓は血液に含まれる栄養素と毒素を取り出し、栄養素は蓄え、毒素は分解する。いわば体内の化学工場だ。

日本では将来的にヒトiPS細胞をブタに植えてヒト臓器を育てたり、ブタ胎仔などから取った臓器のもとになる組織を患者に植えて臓器に育てたりする基礎研究が進んでいる(左下の写真は医学研究用のブタ)。ヒトの臓器を育てるのに適したブタを遺伝子組み換え技術で作る研究も成果が出つつある。

* 日経サイエンス誌2009年8月号「血の通った臓器をつくる」 より
* 日経サイエンス誌2009年8月号「動物で育てるヒトの臓器」 より
* 日経サイエンス誌2009年8月号「創薬に活躍するiPS細胞」 より


【 風に乗って広がる? 日本脳炎 】

掲載日:2009年6月29日

日経サイエンス8月号 実用間近に迫ったiPS細胞

蒸し暑くなって蚊が現れ始めた。枕元で鳴かれたり、刺されるなど不愉快な存在だが、一昔前は日本脳炎ウイルスを媒介する害虫として怖がられた。1960年代、毎年1000人以上の患者が出て、そのうち2〜3割は死に至った。

現在は年間10人以下に減少しているが、過去の病気になったのかといえば、そうではない。かつて、ほとんどの子どもは日本脳炎ワクチンの接種を受けていたが、2005年、政府は副反応を理由に接種勧奨を中止、以来4年にわたって接種が事実上止まっていた。この6月から新ワクチン出荷が始まったが、接種に反対する声も残っている。 実際の患者が極めて数少ないことが接種反対の背景にあるが、実は患者が減った主因がはっきりしていない。ワクチンが効果を上げたこともあるが、日本脳炎ウイルスの流行の変化による影響がより大きかった可能性もある。

その意味で、流行の仕組みの解明に関心が持たれているが、近年、東アジアや東南アジアで毎年3〜5万人の患者を発生している日本脳炎ウイルスのタイプが、 1年から数年遅れで日本に入ってきていることがわかってきた。ウイルスを体内に宿した蚊が風に乗って東シナ海を渡り、日本にやって来ている可能性があるという。

* 日経サイエンス誌2009年8月号「海を渡る日本脳炎ウイルス」 より




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